地方書店 売れ筋は都心部と異なるの? 農村にある本屋に聞く、意外に売れているものと返品が多いもの

■秋田県羽後町に唯一残る書店に話を聞く

2025年1月5日のミケーネの様子。学習塾が2階にあり、最近ではクリーニングの取次も始めた。また、野菜の販売も行っている。周辺の小売店が次々と閉店している今、ミケーネが“何でも屋”になりつつある。
 

 秋田県羽後町は人口1万3056人(2024年11月末現在)の農村である。この町に唯一残った書店「ミケーネ」は、現在70歳になる阿部久夫さんと妻の祥代さんが営む個人経営の書店だ。羽後町には20年前、チェーン店を含め3軒もの書店があったが、残るのはミケーネだけになってしまった。

店の正面には積もった雪が壁のようになっている。写真ではイメージしにくいが、店の周囲は雪原だ。

 ミケーネは2階で「ガロア」という学習塾を営んでいる。そのため、地域の子どもたちが集まるコミュニティの場にもなっており、かつては塾帰りの子どもが漫画や雑誌を買い求める光景が見られたものだ。しかし、羽後町は急激な少子化も進んでおり、学習塾の経営も決して盤石とはいえなくなりつつある。

 地方の書店の在り方を考える意味で、リアルサウンドブックではミケーネにたびたびインタビューを行ってきた。漫画界では『鬼滅の刃』『SPY×FAMILY』『【推しの子】』などのヒットがあるが、ミケーネではそういったヒットをどのように感じているのか。今回、ミケーネで漫画の仕入れを担当している祥代さん(68歳)に話を聞いた。

人気の本、なぜ地方の書店では仕入れることができない? 「【推しの子】って、今売れているんですか(笑)」

リアルサウンドブックでたびたび登場している、秋田県羽後町の「ミケーネ」は、人口約1万3000人の農村の田園風景の中に立つ個人経営…

■アニメ化された漫画が売れ筋

店内の様子。本棚に漫画や小説がぎっしりと並んでいる。しかし、漫画の仕入れを担当する阿部祥代さんは「高齢なので売れ筋の分析ができていないのが残念」と話す。

――現在、ミケーネで売れ筋になっている漫画は何でしょうか。

祥代:子どもたちの間では、テレビアニメ化されている『ダンダダン』『呪術廻戦』『チェンソーマン』『【推しの子】』などの集英社の作品が人気です。今まで静かだった『はたらく細胞』(講談社/刊)がアニメになると突然売れ始めるなど、田舎でもメディアに左右される傾向があるようですね。40~50代の人たちには『ゴールデンカムイ』など、やはり集英社の漫画が人気があります。

――やはり大手出版社が出す漫画はメディアミックスの相乗効果もあって、人気が高いですね。ほかの出版社で売れ筋はどこでしょうか。

祥代:アルファポリスが出している漫画の単行本も売れていますね。ネットで読んで、続きを読みたい、現物を買いたいという人が増えているのでしょう。アルファポリスのように私たちの世代が知らない出版社の本が動くのも、最近の傾向です(笑)。本屋をやっていると、知らない世界がいっぱいあるなと感じます。

――都心では池袋の「アニメイト」などが若者でごった返していますが、ミケーネにも若者が押し寄せていたりしますか。

祥代:それは……ないですね(笑)。私自身が歳をとってしまって、漫画の売れ筋を勉強できていないので、若い人たちは別の本屋に行ってしまうんじゃないかな。あと、最近は疲れていることもあって、棚をきれいに整えることができないんです。できれば、新しい感性をもつ若い人たちにバトンタッチしたいという思いはあります。

――若い人たちが書店をやりたいという思いは感じますか。

祥代:ミケーネの場合は私の息子がいるので続いていますが、本屋をやりたい人は田舎にもいるんじゃないかなと思います。農業は魅力があるので、新規参入している若者が増えているでしょう。今、田舎で本屋をやっても儲かりはしないかもしれませんが、魅力がある商売だと気付き始めた若者は増えていると思います。

■子どもは漫画に関心があるか

この日、ミケーネを訪れていた人たちにお気に入りの漫画を手にとってもらい、記念撮影。『【推しの子】』が人気なのは地方でも変わらない。以前にミケーネをインタビューした際は入荷数が少なかったが、現在では最終巻16巻もしっかり入荷するようになった。漫画は雪国の子どもたちに夢と希望を与えているようだ。

――私が子どもだった30年前は、「週刊少年ジャンプ」を発売日に買いに行く子どもがたくさんいました。現在、漫画雑誌を買っているのはどのような層でしょうか。

祥代:「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」「チャンピオン」、あと「ビッグコミック」は昔からの常連さんで、毎週買いに来る人はいます。けれども、若い人たちは来ないですね。若い人たちはネットやコンビニで買うのが普通になっているからだと思います。今は、漫画は雑誌の連載がきっかけではなくネットで知って、単行本を買いにくるパターンが多いですね。長いタイトルの、例えば侯爵令嬢などの異世界物などを買いに来ますね。ただ、その分野は私自身がハマれないのでうまく仕入れられないし、そろえられない(笑)。お客さんに言われたものをそろえるくらいになっているのが、歯がゆいですね。

――ミケーネは2階に学習塾がありますが、塾帰りの子どもたちは漫画を買いに来たりはしませんか。

祥代:昔は塾の休憩時間や帰りに必ず立ち読みや買いにきていましたが、今はもう、そんなことはないですね。なぜなのかはわかりませんが、時代なのかな。もうみんな、塾は塾という感覚でまっすぐ塾に上がっていくし、終わればまっすぐ帰っていく感じです。そして、帰ったら自分のパソコンやネットに入り浸るのかもしれない。本屋で楽しむとか時間をつぶすという光景は、見られなくなりました。

――羽後町の場合、人口減少と少子化が深刻です。そういった影響を大きく受けているのが書店なのかなと思います。

祥代:それは、本屋に限らず、理容業や飲食店、田舎のすべてのビジネスで言えることだと思います。ただ、本屋をやっていると、こんなに子どもたちが経済を動かしていたというのがわかりますね。

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