立花もも新刊レビュー 浅倉秋成の新作、愛らしい主人公から恋愛小説まで……今読むべき3選

深沢仁『ふたりの窓の外』(東京創元社)

深沢仁『ふたりの窓の外』(東京創元社)

  父親が死んで、火葬場で親類と過ごす時間に耐えきれなくなり、タバコを吸いに出たところで派手に転んでいた女性。恋人が死んで、さらに浮気相手が葬儀にも現れて、抱えきれなくなったものを見知らぬ男の前で吐き出すしかなかった彼女と、なぜか一泊の旅に出ることに――。これまた「良識」の外にある関係を描き出した作品である。

  女性――藤間紗奈は、亡くなった恋人と行くはずだった旅行を、キャンセルするかわりに男――鳴宮庄吾に同行してもらうことにしたのだった。なりゆきというよりも、ほとんどノリである。ふだん、そうした無鉄砲な行動に出ることはない、むしろ感情の起伏が見えにくいがゆえに、亡き恋人の浮気相手にもなじられたほどの紗奈の世界は、庄吾に出会ったことで少しずつ、開かれていく。そして庄吾もまた、売れない役者として、芸名で生きてきた時間のほうが長く、久しぶりに本名の自分しか知らない、素のままの自分で向き合える相手に出会えたことで、心の鎧がゆるやかに外れていく。その、小さな積み重ねが、愛おしい。

 第一話、庄吾の視点で描かれる旅行は、春。再会の第二話は、庄吾から思わぬ頼まれごとをする紗奈の視点で、描かれる夏。そして秋、冬、と季節ごとに一度ずつ、二人は出会う。そのあいだ、メールや電話をすることもなく、本当に「次」があるのだろうかと思いながらも、二人の関係は静かに、途絶えることなく、紡がれていく。

  友達でも恋人でもない、けれど、友達や恋人と過ごすときよりも心を自由に解放することのできる関係。四季折々の情景に触れながら、なんて美しいんだろうと憧れた。だからこそ、距離を縮めることをおそれる二人の気持ちも、わかる。その関係に名前をつけて、美しいままでは終わることができなくなってしまったら、互いの存在があたりまえの日常になって、大事にしたかった何かが壊れてしまったら、どうしようと怯える気持ち。

  そんな二人が、ひっそり、静かに、近づいていく過程が愛おしい。久しぶりに、いい恋愛小説を読んだ、と思った。著者の他の小説も、もっと読んでみたい。

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