立花もも 新刊レビュー 生きるとはどんなこと? さまざまなテーマで「人生観」に迫る注目作は

 発売されたばかりの新刊小説の中から、ライターの立花ももがおすすめの作品を紹介する本企画。数多く出版されている新刊の中から厳選、今読むべき注目作品を紹介します。(編集部)

『世界の美しさを思い知れ』額賀澪 双葉文庫

  人気上昇中で、映画も撮影中だった俳優・蓮見尚斗が自宅で自死。享年25歳。

  主人公はそ双子の兄で、見た目は瓜二つだけれど一般会社員の貴斗。世間で言われているような、有名人の弟に対するコンプレックスも確執もなく、仲が良かった自負があるだけに、突然の死を受け止めきれずにいる。顔認証だったスマホのロックもやすやすと開ければ、弟が予定していた北海道旅行の予約履歴が出てくる。なぜかマルタ島から、誰かにプレゼントしようと思っていたらしいバレッタが届く。弟に訪れるはずだった未来を追いかけるように、過去に手がかりを探すように、貴斗は北海道へ、マルタ島へと、旅をする。そうして少しずつ「尚斗」に飲み込まれていく貴斗の葛藤が、痛い。

  だからこそ、物語の隙間に挟み込まれるSNSのコメントやニュース記事に、本気で腹が立ってしまった。お前たちに、何がわかるのか。愛をこめているつもりで邪推して、好き勝手に騒ぎやがって。――でもその瞬間、自分だって同じなのだと激しい罪悪にも襲われる。自分も同じことをしていないとは、言いきれない。そう突きつける鋭い刃が、この小説には忍ばされている。

  きっと、悲しみを、誰かを悪者にすることでしか癒せないのだと思う。ただのファンは、その人の実像には、好き勝手言うことでしか関われないから。でもそれは、誰より近くにいたはずの貴斗とて同じなのだ。どれだけ似ていても、半身のような存在であっても、なぜ死んでしまったのかは、わからない。できるのはただ、愛する人を変わらず愛しながら、生きること。死で、その人の生きた痕跡を、歪めてしまわないことだけだ。その決意を証明するかのようなラストに、目頭が熱くなる。美しいけれど、痛くて厳しい。他の作品にも通底する、著者の筆致が好きだなあ、と思いながら。

『死んだ山田と教室』金子玲介 講談社

  突然の死に触れると、もう二度と会えないなんていやだと心から思う。でもだからといって、生きていない状態でこの世にとどまり続けるのは、死ぬよりもっとつらいことなんだな、と本作を読んで思った。

  クラスで人気者だった山田が交通事故で亡くなり、クラスメートが悲しみにくれていたそのとき、教室中に響きわたる山田の声。どうやら二年E組のスピーカーに憑依してしまったらしい山田と友人たちの、不可思議な青春劇である。

  文章で読んでいるぶんには、ふつうの高校生たちの会話と何も変わらない。けれどふと、想像してみると、ひどく切ない気持ちにさせられる。クラスメートと担任以外に状況を知られないため、「おちんちん体操第二」という男子校ならではのふざけた合言葉をきっかけにしか、声を発することができない山田。それ以外は、どんなに楽しそうな会話が聞こえてきても、まざることはできない。土日は、ひとりぼっちだ。だから、ラジオパーソナリティの真似をして延々とひとりで、話し続ける。やがて月日が流れれば、クラスメートは進級し、教室からいなくなる。いったい山田は、いつまでその場所にいるのか。そもそもどうして、憑依なんてしてしまったのか――。

  死んだ人のことを、いつまでも大事に思い続けるのはとても難しい。その人のいない未来を生きるということは、置いていくということでもある。『世界の美しさを思い知れ』と続けて読んだために、なんだかいろいろと考えてしまった。しんみりしながら最後のページをめくったら、次回作の予告が。タイトルは『死んだ石井の大群』。なんだそれは、どういうことだ。超読みたい。

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