小学館「マンガワン」10周年でベストアプリ受賞 編集長・豆野文俊に訊く、読者・漫画家から支持される理由
組織の中に「班」と「係」を作るイメージ
ーーブランディングという意味では、公式YouTubeチャンネル「ウラ漫 ー漫画の裏側密着ー【小学館マンガワン】」が大好評で、100万再生を超える動画も生まれました。
豆野:そうですね。動画で「マンガワン」の編集部、編集者、連載作家が実際にどんなものなのか、ということを見せることができたので、結果として、新人賞の応募数が激増しました。今後確実に業界を席巻するような若い先生がそろっており、いい形でデビューしてもらって、きちんとヒットのレールに乗せることができたら、数年後には「ジャンプ」さんの背中に追いつけ、追い越せという状況ができるのかなと。持ち込みの量も単純に3倍くらいになっており、YouTubeの影響に驚いています。
ーー動画の内容を見ると、『闇金ウシジマくん』シリーズを担当されてきた豆野さんらしく、リアルなドキュメンタリーテイストのものが多くて、ある種の覚悟を持った応募者が多そうだなと思いました。応募作品の質も上がっているのでは?
豆野:間違いなく上がっています。漫画編集者というのは、そもそも裏方がやりたくてやっている人が多いので、本当は動画に出たくないという思いもあるかもしれませんが、みんな協力してくれていてありがたいですね。アプリの基本的な運営も含めて、漫画のために、作家さんのために、という芯を持って一貫してできているな思います。
ーー「マンガワン」は各種キャンペーンをはじめとするアプリ内のイベントも多く、その点では書店系のアプリに近いようなアクティブ感があります。
豆野:最初はポップアップ通知を行うイベントは週に1回しかなかったのですが、今は毎日あります。常に「アプリを開いたら何かある」という状況を作るために、やはり編成チームを作って運営しています。編集者自身が日々漫画を作りながら担当しているので、本当にプロ意識が高く、優秀な人材が揃っていることに感謝ですね。イメージとしては、漫画を作る「班」があって、そのなかにアプリのイベント等を考える「係」があるという感じです。それがうまく回る組織図を作る、ということが重要でした。
UIの変更は「新連載を読んでほしい」という読者へのメッセージ
ーーまた、UIの大きな変更点として、もともと「マンガワン」の特徴だった「男性向け」「女性向け」等のランキングは維持しつつ、「曜日別」のランキングが目立つようになりました。これにはどんな意図があったのでしょうか。
豆野:新連載を読んでほしい、というメッセージです。力のある新連載でも、なかなかユーザーの目に触れず、「男性向け」の30位あたりに沈んでしまうケースがあり、その状況を改善するためですね。
ーーなるほど、潜在的な読者は多いはずなのに、目につかないために人気が出ない、というケースはありそうですね。
豆野:そうですね。少なくとも自分たちが作っている媒体の新連載作品は、きちんと読者の目に触れる形で提示するのが大事だろうと。
よりユーザーフレンドリーなアプリを目指して
ーージャンル別のランキングを見ると、「アクション・バトル」「恋愛」「日常・コメディ」「ファンタジー・SF」「スポーツ・部活」というわかりやすいところから、「女子向け異世界」や「お仕事・社会派」など、細やかに分けられているのがユーザーフレンドリーだなと思います。
豆野:ジャンル分けも悩ましいところで、何案も出して試行錯誤しているのですが、正解がいまもわからず(笑)。「異世界」でも多くのジャンルがあり、本当はもっと細分化しなければいけないかもしれませんが、あまり煩雑なのもよくないのかなと。今後も調整していくと思います。レコメンドについてはジャンルで切るのも大事ですが、今後はAIをどう活用するか、という議論も進めているところです。
ーーユーザーの閲覧履歴から、最適な作品を提案すると。
豆野:AIに漫画の内容自体を食わせれば、かなり適切なレコメンドができると思うのですが、現状ではセールスベースでしかできていなくて。つまり、「この作品を買った人は、次にこの作品を買っています」というレコメンドで、これでは十分ではないかもしれない。
ーーなるほど。一見まったく別ジャンルだけれど、その読者には確実に刺さるという、本来だったら出会わなかったかもしれない作品にも出会えるかもしれない。
豆野:そういうことです。それができれば、レコメンドの質が一段階上がる。さまざまなセミナーや勉強会に行くと、AIを使ったテクノロジーは急速に進んでいるので、これからどう向き合おうかと考えています。