小学館「マンガワン」10周年でベストアプリ受賞 編集長・豆野文俊に訊く、読者・漫画家から支持される理由

ジャンルを超えて多様な作品に出会える「マンガワン」
ーー多様な読者へのアプローチということを考えると、これまでフィジカルで漫画雑誌を手に取る機会が多くなかった潜在的な女性読者へのアプローチも、アプリとしては重要なポイントだと思います。もともと「女性向け」ランキングがありましたが、総合のランキングを見ても女性向けに分類できる作品は増えていますね。
豆野:おっしゃる通りで、その辺りは属人的に、うちには優秀な女性の編集者で、優秀な女性作家を抱えている人がいるので、力を入れてもらっています。火がつくのはリアルの書店からかもしれないし、書店系のアプリからかもしれませんが、こうしてランキングに入るのは意味があって。実際のところ、「マンガワン」で思い切りマネタイズしようとは考えておらず、あくまで読者と作品の出会いの場になれば、ということが大きいんです。ユーザーは男性の方が多いので、女性は少し息苦しいかもしれませんが、その点も、UIの変更で少しは改善したかなと。マンガワンには少女漫画も掲載されており、不意に出会って愛読者になっていただければうれしいですし、それをきっかけに他のアプリやメディアで読んでいただけたら、それもいいかなと思います。
ーー絵柄や内容は「女性向け」と思えるものでも、当然ながら男性が読んでハマってしまう作品があります。少女漫画雑誌を読む男性はあまり多くありませんが、「マンガワン」のようにジャンルレスなアプリでなら、そういう作品に出会えそうです。
豆野:そうなるといいですね。私は当然、連載作品は全作読んで校了しているのですが、女性向けで面白い作品は多いです。例えば、私はデジタルで大ヒットしている『もう興味がないと離婚された令嬢の意外と楽しい新生活』や『灰被り姫は結婚した、なお王子は』にハマっていますし、女性同士のラブストーリー『付き合ってあげてもいいかな』も、男性がハマる面白さがあると思います。こちらについては朝日新聞の男性記者の方が本当に大好きだということで、実際に記事にしていただきました(2024年6月22日掲載の記事『別れてからが本番、恋愛漫画の実験 アプリ連載「付き合ってあげてもいいかな」たみふるさん』)。
ーー直近のトレンドになっている、縦読み&フルカラーの「webtoon」も増えていますが、今後についてはどうお考えでしょうか。
豆野:webtoonは従来の漫画と違ってスタートで30話くらい用意しなければならないので、制作に時間がかかるところがあって。つまり投資のイニシャルが大きいのと、まだ販路がそこまで多くないので、力の入れ具合は考えるところですが、webtoonでも版面の漫画でも、面白いものは面白いし、売れるものは売れると考えていますので、どちらにも意味があると思って取り組んでいます。

次の10年へ
ーー「マンガワン」は今年で10周年を迎えましたが、次の10年に向けてはどんなことを考えていますか。
豆野:ベストアプリに選んでいただき、いま目指している方向性は正しいのだと確認できました。そのため、このまま正しい方向で舵を取り、グロースできるかということが問われていると思います。世界同時配信も進むでしょうし、アニメや映画、ドラマ、直近で伸びているドラマショートなどと、原作として連動するような施策も増えていくかもしれない。向こう2~3年のベクトルは合っていても、その先で間違えてしまわないようにと。いずれにしても、編集者というのは裏方であって、アプリの運営はさらに裏方の仕事なので、そこにフォーカスして表彰までしていただいて、ありがたいですね。
ーーさて、最後に編集長からおすすめの連載作品を教えてください。
豆野:全作品に思い入れがあるので、厳選しても長くなりそうですみません(笑)。曜日別にいうと、月曜日なら大ヒット中の『ホタルの嫁入り』、うちの看板作家の一人サンドロビッチ・ヤバ子先生の『一勝千金』に、『闇金ウシジマくん』のスピンオフで、私が担当を続けさせてもらっている『少年院ウシジマくん』。動物の保護活動に向き合った『全部救ってやる』も賛否両論を織り込んだすごい作品で、身分隠し系のラブストーリー『オオカミは月に恋をする』もめちゃくちゃ好きです。
火曜日は圧倒的に読まれている『血と灰の女王』があり、『アフターゴッド』もヤバい作品です。『青のオーケストラ』もアニメ化も含めて話題ですし、まだ始まったばかりのコミカルに読めるヒーロー漫画『鬼龍伝』にも注目してほしいですね。水曜日は『もう興味がないと離婚された令嬢の意外と楽しい新生活』が女性向けのストアで爆売れしていますし、『バンビ~ノ!』のせきやてつじ先生が描く寿司バトル漫画『寿エンパイア』はいつ読んでも面白い。『日本三國』も映像化の問い合わせが相次いでいる、すごい作品です。『巻き添えで異世界に喚び出されたので、世界観無視して和菓子作ります』も異世界系の王道で面白いし、『ドラゴン養ってください』も映像化への期待が高まっています。“異世界版『ブラックジャック』”のような『獣王と薬草』も世界観が緻密でよくできています。木曜日は『ケンガンオメガ』がエースで、ホストが主人公の『星屑の王子様』はまだ映像化されていないのに、あらゆるグッズが売れる人気ぶり。『つれない彼女のひとりじめ』はめちゃくちゃドキドキするので読んでください。『遥かなるマナーバトル』は最高に笑えるので連載を追ってほしいですね。
金曜日。先ほども名前を挙げた『付き合ってあげてもいいかな』が素晴らしく、たみふる先生は天才だと思います。『灰被り姫は結婚した、なお王子は』も金曜日です。野田クリスタルさんに絶賛していただいた『あくたの死に際』も注目作ですし、『雷雷雷』はSFとして質が高すぎる作品。土曜日は何といっても『裏バイト:逃亡禁止』がホラー漫画として圧倒的。同じくアルバイトでも『BFF』はいい意味で狂気があって最高です。『異世界ありがとう』もここに来て単行本の売り上げが伸びています。日曜日は本多忠勝の生涯を描いた『風の槍』が人気ですし、最後なので職権濫用させてもらうと、私が担当している『アヤシデ 怪神手』という水田マル先生のデビュー作をイチオシさせてください。天才です!

小学館「マンガワン」10周年でベストアプリ受賞 編集長・豆野文俊に訊く、読者・漫画家から支持される理由
▪️マンガワン公式サイト:https://manga-one.com/
▪️マンガワン10周年記念特設サイト:https://10th-anniversary.manga-one.com/