青春の全てが詰まった将棋漫画ーー『四月は君の嘘』新川直司の最新作『盤上のオリオン』が熱い

青春が詰まった将棋漫画『盤上のオリオン』

 『四月は君の嘘』『さよなら私のクラマー』といった10代の青春を描いた作品を代表作に持つ新川直司が2024年1月に新たに連載を開始した作品が「将棋」を題材にした『盤上のオリオン』( 週刊少年マガジン)だ。

 これまでの作品同様、本作品の主人公も10代の青年、二宮夕飛(にのみやゆうひ)だ。本作が醸し出す10代の挑戦者達から溢れ出る瑞々しさと将棋への情熱は過去のどの将棋漫画ともまた一味違った魅力を読者に伝えてくれる。夕飛と奨励会のライバル達との闘いは勿論、青春ドラマとしての魅力も凄まじい本作について迫っていきたい。

将棋を中心に巻き起こる青春ドラマとしての読み味の深さ

 幼い頃に震災で両親を亡くした夕飛は将棋好きの祖父に将棋を教わり、自分が将棋に勝つことを喜んでくれる祖父の為にプロ棋士を目指す。やがてプロへの登竜門である奨励会にまで辿り着くが、プロへの切符を目前にしながら、公式戦17連敗と精彩を欠きもがき苦しんでいた。

 息抜きにと先輩が誘ってくれたバーで、夕飛はそこで働くバーのマスターの娘、茅森月(かやもりつき)と運命の出会いを果たす。希望するお客相手にギムレット一杯を対価に将棋を指している月は、その美しい容姿からは想像出来ない程に勝ち気な性格で、客を金ヅルとしか思っていないような自由奔放なキャラクターだ。

 会話の流れで夕飛と対極することとなり、強気にも勝利宣言を行う月。誰もが夕飛の勝利を疑っていなかったが、あろうことかプロ一歩手前の夕飛に勝ってしまうのだ。ただでさえ連敗が重なって鬱々としていたところに、ダメ押しで素人に敗れてしまい完全に自信を喪失してしまった夕飛は、プロ棋士になるという夢を諦めてしまう。そんな折、夕飛は意外にもすぐに月と再会を果たすことになる。

 偶然にも夕飛が通う高校の生徒会に所属する、お淑やかで全校生徒から羨望の眼差しで敬われる女王(クイーン)として存在していたのが、昨日のバーで自身を将棋で打ち負かした月だったのだ。昨日の自分を姿を絶対に校内の人間には晒さないように月に脅され、生徒会への強制加入と月の母親が営むバーで強制労働を強いられることになってしまう夕飛だが、最初は渋々ながらも、次第に明るく真っ直ぐな月の言動に影響を受けていく。

数百年の時を紡ぐ知のスポーツに挑むヒロイン・月の物語

 将棋は室町時代にはそのルールが確立されていたと言われる程にその歴史は古く、これまで数百年に渡り研鑽が積み重ねられてきた。言うなれば、知恵を積み上げてきた知のスポーツと捉えることもできるだろう。1924年に今の将棋連盟の前身となる「東京将棋連盟」が誕生し90年の歳月が流れた。プロ入りへの道は極めて狭く、年間でたった4人しかプロになることができない厳しい世界だ。

 更に、これまでの長い歴史で女性のプロ棋士はただの1人も存在していない。それでも、夕飛は月に「プロ棋士になりませんか?」と彼女を誘う。

 きっかけとなるのは夕飛と共にかつて4人の神童と呼ばれていた内の1人、将棋界に新たに誕生した天才、久慈彼方(くじかなた)4段。プロ新記録のデビューから29連勝を記録した期待の新星だ。かつて夕飛とライバル関係にあった彼方は、月に敗れ将棋から離れてしまった夕飛を取り戻すために月が働くバーに出向き、将棋での勝負を申し出る。月を寄せ付けず、圧倒的な勝利で実力差を見せつけた彼方。悔しがる月は彼方にリベンジする為、本気でプロ棋士を目指すことになるのだった。

 将棋の王道を突き進みプロ棋士を目指す夕飛と、あえて邪道と呼ばれるルートからプロ棋士の座を狙う月。2人の目指す場所が交差するその先には、きっと無数のオリオンが輝いていることだろう。10代という特別な時間、学校やバイト先のバーでのコミカルなやりとりも愛おしい本作。2人の目指す夢の旅路がどのような結末を迎えるのか、楽しみに追いかけ続けていきたい作品だ。

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