SF漫画『宝石の国』完結ーー『花束みたいな恋をした』でも話題「生々流転」を描いた傑作物語を振り返る

漫画『宝石の国』完結 その魅力を解説

 そうした流れの中で、フォスの姿はさらに変化を遂げていく。手足や顔が変わった程度では済まない異形の姿となり、クライマックスが近づくところで先生よりも強大そうで、月人よりも神々しさを放つ姿になって物語に終止符を打とうとする。こうした主人公の変化を、いつかTVアニメの続きが作られた時、声を演じた黒沢ともよはどのように演じ分けるのかが気になって仕方ない。

 もっとも、それくらいの変化が身の上に起こりながらも、意識はずっとフォスとしてあり続ける。そこに、意思を持ち続けることの大切さであり、貫き通すことの大変さを感じ取れる。

 月人と戦うということを日課のように繰り返し続けて来た宝石たちにはなかった前向きさがあった。終末だけを望んで宝石たちを狩り続ける月人たちにはなかった好奇心もあった。それらを満たすために進み続けようとするフォスの執着心ともいえる個性。そこから、留まっていることを止め、滅びることを受け入れない強さを学び取れる。

 宝石たちという美しいキャラクターたちを愛でて楽しむことができるエンターテインメントであり、遠い未来のとてつもなく進化してしまった人類の姿とその先を示そうとした特級のポストヒューマンSFと言える『宝石の国』。それを、スタイリッシュであったりグラフィカルであったりと、他に類を見ないビジュアルで描き抜いたところも、『宝石の国』を漫画作品として特別なものにしている。SFと漫画のどちらでも、年間最高の賞をとって当然の作品だ。

◼️菅田将暉・有村架純主演の大ヒット映画にも登場

(C)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会

 「このマンガがすごい!」では、1巻が出た2023年に刊行の「このマンガがすごい!2014」オトコ版の第10位に入ったのが唯一のランクイン。「マンガ大賞」でも第8回にノミネートされたものの13位に留まっただけで、まだ始まったばかりということもあり、手探りの中の評価に留まった。ただ、映画『花束みたいな恋をした』(2021年)の中で、菅田将暉が演じる麦と、有村架純が演じる絹が同棲し始めて間もない時期に読む漫画として登場し、まだキラキラとしていた日々に輝きを添えるような作品といった印象を与え、ファン層を広げた。

 それだけの物語でありこのビジュアルが、1期で終わってしまっているTVアニメとしてふたたび映像となって動き出して欲しいと願っているファンも少なくない。オレンジが2017年に制作したTVアニメは、3DCGで描画されながらも手描きのアニメのような描線で、漫画から飛び出してきたような宝石たちが動き、喋って楽しませてくれた。それでいて宝石らしい透明感に3DCGの特徴が反映され、最先端のハイブリッド感を魅せてくれた。

 声の方も、フォス役の黒沢ともよだけでなく、鬱屈したシンシャを演じた小松未可子、おっとりとしたユークレースにぴったりの能登麻美子、そしてパパラチアの朴璐(ろ)美といった、当時も今もトップ級の声優たちがずらりと並んで競演ぶりを聞かせてくれた。見るのがこれほど楽しみだったTVアニメもなかった。

 それだけに、宝石たちと月人たちの戦いを経て、フォスが世界の真相を知り訪れた月人の正体に驚き、宝石たちを導いていった先の遠い未来に訪れる激動を映像によって見せて欲しい。生命が生まれては変化して滅び、そしてまた生まれ育って朽ちていった先で再生する生々流転の様に触れさせて欲しい。

 かなうとしてもまだ先の話になるとするなら、まずは漫画の『宝石の国』を手に取ろう。フォスフォフィライトという主人公の生々流転に寄り添って、何かを追い求めあきらめないで突き進み、はるか未来のその先へと続く道をひらく姿に、流されているだけの自身の生き方を問い直そう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる