東宝 ニューヨークのアニメ配給会社「GKIDS」子会社化に業界衝撃ーー経営戦略が示すアニメへの“本気度”

 映画配給会社、東宝の勢いが凄まじい。国内では、山田尚子監督の『きみの色』を手がけたアニメ制作会社のサイエンスSARUを完全子会社化し、新海誠監督『すずめの戸締まり』を手がけたコミックス・ウェーブ・フィルムにも出資。国外では、宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』を北米で配給し、アカデミー賞受賞への道を開いた配給会社「GKIDS」を完全子会社化。映像製作会社としての存在感を強めている。2024年2月期の第2四半期(中間期)決算では、営業収入や営業利益が過去最高となって収益面でも盤石の東宝は、これからどこに向かっていくのか?

ジブリ、新海誠、細田守作品を北米に配給していた配給会社「GKIDS」

 アメリカで10月15日に発表されたニュースが、現地の映像業界を揺るがし、アニメファンを驚かせた。北米を中心にアニメ作品を配給しているGKIDSが東宝に株式を譲渡して100%子会社になることを発表した。今回の出来事にハリウッド・リポーターや3大ネットワークのABCといった有力メディアは即座に反応。それだけのインパクトを持っていた背景には、GKIDSが北米のアニメ業界で確固たる地位を確保していたことがある。

 長くウォルト・ディズニー・カンパニーが手がけてきたスタジオジブリ作品の北米での配給を引き継ぎつつ、『マインドゲーム』や『夜明け告げるルーのうた』といった湯浅政明監督作品も次々と配給。細田守監督作品や新海誠監督作品といった日本のトップクラスのアニメ作品を次々と北米に投入して、マーケットを切り開き、現地のアニメファンにとってなくてはならない配給会社となっていた。

 そこに、ネット配信の普及もあって日本のアニメ作品へのアクセスが容易になり、「もっと見たい!」といった雰囲気が高まっていたことも追い風となっていたところに持ち上がった東宝による買収話。東宝が国内で強めているアニメ分野の強化策を連係して、日本から北米へ、そして世界へとアニメ作品が出ていく太い道が生まれたことで、現地の期待を誘った。

東宝はアニメ事業を「第4の柱」に

『ゴジラ−1.0/C』

 実写でも、子会社の東宝インターナショナルを通して『ゴジラ-1.0』を北米に配給し、第96回アカデミー賞で日本作品としては初となる視覚効果賞獲得へと至らせた。こうした海外展開が東宝では今、経営の大きな柱になっている。少子高齢化が進む国内で右肩上がりの観客増が期待できないなら、海外に活路を見出そうとするのは企業として当然の施策。「ゴジラ」のように海外に根強いファンを持つキャラクターを、自社の作品としてのみならず、海外作品に”貸し出す”ことでさらに認知度を高め、旧作も含めた利用の拡大につなげていこうとしている。

 それでも、グローバルでヒットする作品を実写で生み出そうとすると、相手はハリウッドの巨大資本となって分が悪い。これがアニメの場合は、すでに長い実績を経て海外に少なくないファンを持っていて、追い風の中で今以上の拡大が期待できるという訳だ。

 2022年に東宝は「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」を策定し、「長期ビジョン2023」の中にアニメ事業を「第4の柱」にすることを掲げ、「中期経営計画 2025」の中でもアニメ事業を項目として掲げて、「企画開発への積極投資」「海外展開の強化」「デジタルの活用」を細目としてあげて取り組んでいく考えを示した。

 GKIDSの完全子会社化は、このうちの「海外展開の強化」を実行に移したものと言える。また、「企画開発への積極的投資」に沿った施策として、このところ活発に進めているアニメ制作会社への出資も挙げられる。CG制作会社のアニマが設立した映像制作会社を2022年に傘下に入れてTOHO animation STUDIOに改名。OLMと共同制作で空前のヒットを記録した『薬屋のひとりごと』を送り出した。2024年にはサイエンスSARUを完全子会社化して、さっそく『きみの色』を東宝配給で公開した。

 アニメ制作から出資・プロデュースという意味での製作、そして配給という映像作品の流れを一気通貫できる体制を整えた格好。『きみの色』には企画段階から、東宝で映画のプロデュースを手がけていた川村元気や古澤佳寛が立ち上げたSTORY inc.が関わっており、「TOHO VISION 2032」の理念を体現した作品と捉えることもできる。加えて『きみの色。』は、GKIDSによる北米での配給が決まっている。外に向かっても東宝のイニシアティブで展開していける体制は、世界を目指す日本のクリエイターなりアニメ制作会社にとって魅力的だ。企画を持ち寄るところが増えてくるかもしれない。

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