東宝 ニューヨークのアニメ配給会社「GKIDS」子会社化に業界衝撃ーー経営戦略が示すアニメへの“本気度”

安定感ある『コナン』『ドラえもん』、『SPY×FAMILY』などTVシリーズも好調

名探偵コナン 100万ドルの五稜星
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』(C)2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 もともと東宝はアニメ映画に強く、興行収入で歴代最高の150億円突破を成し遂げた劇場版『名探偵コナン 百万ドルの五稜星』や、長い伝統の上にしっかりとしたファンを獲得している映画「ドラえもん」シリーズの最新作『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』を今年も公開。過去のシリーズにない興行収入115億円を叩き出した『劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦』もあって、映画営業事業で前年同期比47.3%増の営業収入360億4700万円を確保した。

 これに、『薬屋のひとりごと』『SPY×FAMILY』『葬送のフリーレン』『怪獣8号』といったTVシリーズの話題作による収入が加わり、実写でも『キングダム 大将軍の帰還』『変な家』『ラストマイル』といった出資作品のヒットがあり、TOHOシネマズでの映画興行による収入も乗って中間期の好決算を支えた。『薬屋』『SPY×FAMILY』『フリーレン』『怪獣8号』といった作品はいずれも続編の放送が大いに期待されている。映画の方も『コナン』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』は定番として底堅い。『ハイキュー!!』も鴎台高校戦を相手にしたファイナルが次に控えている。

『きみの色』(C)2024「きみの色」製作委員会

 作品に不足なく、企画から製作、そして海外展開へと至る体制も盤石となれば向かうところ敵なしか? そこは、エンターテインメントという先読みの難しい分野だけに、絶対とはなかなか言えない。

  細田監督や新海監督のように数十億円から100億円を超える興行収入が期待できるクリエイターを探して作品を集めようとしているが、期待された『きみの色』は作品として優れているものの、興行成績には結びついていない。

  『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の長井龍雪監督による新作『ふれる。』も同様だ。

東宝は新海誠監督率いる制作会社にも出資

 2006年公開の『時をかける少女』から3年ごとに新作を送り出してきた細田監督は、2021年の『竜とそばかすの姫』に続く新作を2024年には送り出せなかった。2016年の『君の名は。』から東宝配給となった新海監督の作品も、3年おきのペースが続けば次は2025年公開となる予定だが、今のところ状況は見えない。新海作品を制作するコミックス・ウェーブ・フィルムに東宝が出資したのは、ここで改めて関係を確認し、新海監督をサポートしつつ新しい才能を確保したかったからかもしれない。

 こうしたアニメ制作会社の抱え込みは、各社がカタログとして持っている過去作品のハンドリングを容易にする効果はあるが、こと新作となると、過去の栄光を支えたクリエイターがそのまま拠点として作品を作ってくれる保証はなく、思った効果を出せないことも起こりえる。クリエイターの持つアイデアなり技術なりが作品全体の良し悪しに大きく関わることが多い、ある意味で“作家主義”の日本のアニメならではの不確定要素と言える。ここを東宝として、どのようにハンドリングしていくかが今後問われてくるだろう。

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