「青春ブタ野郎シリーズ」がついに完結! 「思春期症候群」を描き続けた10年間を振り返る

「青春ブタ野郎シリーズ」がついに完結へ

 2014年刊行の『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(電撃文庫)から始まった鴨志田一によるライトノベル「青春ブタ野郎シリーズ」が、10年を経て10月10日発売の『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』(電撃文庫)で完結した。「思春期症候群」という、多感な世代の少女や少年に起こる不思議な現象を軸に置き、主人公の梓川咲太と先輩で恋人になる桜島麻衣や自分の妹、そして周囲の人たちとの関係を描いた「青春ブタ野郎」シリーズは、揺れる若者たちの心情に何を残し、ライトノベルの歴史に何を刻んだのか?

 「その日、梓川咲太は野生のバニーガールと出会った」。そんな衝撃的な書き出しで始まった『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』は、図書館の中を歩き回るバニーガールを咲太が目撃するという、シュールで愉快なシチュエーションへと続き、いったい何が起こっているのかと読者の関心を誘った。

 そのバニーガールの姿が、咲太以外には誰にも見えていないことと、バニーガールの正体が、同じ県立峰ヶ原高校に通う先輩で、子役として人気を獲得し女優としても活躍しながら活動休止を発表していた桜島麻衣だったことが咲太には不思議だった。翌日、学校に近い駅のホームで再会した麻衣は、一般人からカメラを向けられるだけの存在感を保っていたが、以前に水族館に行った時は誰も麻衣に気づかず、喫茶店に入っても席に案内されなかった。

 咲太はそれを、都市伝説の「思春期症候群」だと言い、自分についている身に覚えのない傷跡や、妹の「かえで」に痣や傷が現れた写真を見せて、「思春期症候群」は実在すると主張する。そうやって始まった咲太と麻衣の関わりは、麻衣の存在が本格的に誰からも認識されない事態へと進み、彼女が子役から女優となって活躍してきた日々の中で感じた悩みや苦しみを、どのように乗り越えていくかが描かれる。そして、思春期にありがちな自分は何者で、どこに向かおうとしているのかといった迷いとの向き合い方を教えてくれる。

 国民的な美少女を恋人にできる夢も見させてくれる。現実ではなかなか叶いそうもなくフィクションとしての満足感に留まるが、それでも楽しいことには変わりがない。いつか目の前に野生のバニーガールが現れないかといった願望は、世知辛いこの社会を生きていく上で心の支えになるのだから。

 こうした展開で、若い読者の関心をギュッと掴んだ「青春ブタ野郎シリーズ」だが、「思春期症候群」という人の心の痛みが原因となって起こる不思議な現象を軸にしていることもあって、以後のエピソードでも登場人物たちがそれぞれに抱える様々な悩みが繰り出され、同じような悩みに直面している若い読者の心を打つ。

 ある女子が抱いていた恋心が受け入れられない苦しみであったり、別の女子が2人の男友達に彼女ができて抱いた疎外感であったり、人気者の姉を持つ妹への強い憧れといったものが引き起こす不思議な現象。それらをひとつひとつ解決していく咲太を通して、思春期を生きる実感を得つつ乗り越えていく力を得る。

 「青春ブタ野郎シリーズ」が人気となった理由には、そうした同世代感もありそうだ。

 増井壮一監督によるアニメも、「青春ブタ野郎シリーズ」の盛り上げに大いに貢献した。『トラペジウム』『ぼっち・ざ・ろっく!』『ふれる。』といった話題作を手がけるCloverWorksが制作したアニメでは、溝口ケージの原作イラストを受けて田村里美がデザインしたキャラたちが、強い存在感を持って映像の中を動き回った。石川界人が声を演じた咲太は無気力さの中に誰かを救いたいという思いを抱き、瀬戸麻沙美が演じた麻衣は女王様気質を持ちながら豊かな愛情を持ったキャラであることを感じさせた。

 麻衣のバニーガール姿が動いているというだけで感動ものだったが、江ノ島や藤沢あたりの実在する風景をバックに演じられる青春ならではのシリアスなドラマがあり、「思春期症候群」を原因にした不可思議でシュールな展開もあって、見る人を引きつけ人気作となった。咲太の妹に関連した「思春期症候群」を解き明かしてTVシリーズが終わった後も、劇場版として『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』『青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない』が制作され、原作のストーリーに描かれた青春の迷いを、観る人に感じさせてきた。

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