『天国映画館』清水晴木 × 『愛しさに気づかぬうちに』川口俊和 対談「大切な方を亡くされた人に読んでほしい」
作中に登場する映画は好きな作品ばかり
――『天国映画館』には映画のタイトルが出てきます。川口さんは映画をご覧になることはありますか。川口:僕ね、演劇やっているくせに、そんなに映画を見ないんですよ。でも、ここに書いてある映画は知っています。『リトル・ダンサー』は見たら絶対に影響を受けると思って……見なかった。『ニュー・シネマ・パラダイス』もやっぱり影響受けると思って拒否している(笑)。物凄く、影響されやすいので。
清水:僕も影響されやすくて、ジャッキー・チェンの『酔拳』を翌日に学校で真似するような子どもでした。
川口:作中に登場する映画は、全部清水先生が好きな映画なのですか。
清水:タイトルもそうですし、作中で登場人物がしゃべっている映画も、僕が好きな作品ばかりです。『インターステラー』のように、親子のつながりや家族の関係を描いている映画が好きなんですよね。
川口:そういえば、10歳の大和くんの話は泣きそうになりましたよ。
清水:最初に思いついたのが大和くんの物語です。僕が入院した時の経験をもとに、少しでも明るくなって、気持ちを前に向けてもらい、救われてほしいという思いを託しました。大和くんは絶対に救いたいと思いながら書きましたね。『天国映画館』は、過去の人生を上映し、未来への希望を書いています。『コーヒーが冷めないうちに』も終盤に未来に繋がっていく場面が描写されています。過去だけを見るのではなく、未来に向けて、前向きな気持ちにさせてくれるのがいいなと思います。
――川口さんは、『天国映画館』を読み終えて、どんな感想をお持ちになりましたか。
川口:読んでいて悔しかったんですよ。同じ分野で、「やられた~!」「そうきたか!」と思った(笑)。
清水:尊敬する川口先生にそういっていただけるのは嬉しいです。『コーヒーが冷めないうちに』は大好きな作品ですから。
川口:いやいや、清水先生には冊数で比べてもかないませんよ。僕なんかただのオッサンですから(笑)。
『エースをねらえ!』を漫画で読んで大号泣
――最初のお話にもありましたが、川口さんは漫画家志望だったそうですね。お好きな漫画についても、気になるところです。川口:僕ね、漫画の話をしたら止まらなくなりますよ(笑)。9割が漫画でできていますから。清水先生はどんな漫画が好きですか?
清水:僕はいわゆる“ジャンプ世代”で、『ONE PIECE』や『HUNTER×HUNTER』は子どもの頃から読み続けています。命について描いているときは、手塚治虫先生の『火の鳥』を読んだりもしますね。親も漫画好きで、家には横山光輝の『三国志』や『水滸伝』、手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』があり、すべて読んでいました。音楽も親の影響で、サイモン&ガーファンクルやビートルズが好きでした。
川口;清水先生の趣味は共感できますね! 僕が好きな漫画は『エースをねらえ!』です。アニメが有名かも知れませんが、ぜひ漫画で読んでください。宗方仁編と桂大悟編の両方を読んだら、めっちゃ好きになると思います。僕は21~22歳の時に読んで、大号泣した想い出があります。物語を読んだくらいでは泣かない冷たい男だと思っていたのに、俺には熱い血が流れているんだと思いました(笑)。
清水:心が動いたのはどんなエピソードですか。
川口:自分は亡くなるとわかっている宗方仁が、主人公の岡ひろみにテニスの技術を伝えていく。やっと育った岡がアメリカに行くことになった。そのとき病院で、「岡、エースを狙え」と書いて亡くなるんです。このシーンの前にも山場があるのですが、とにかくこの場面が良すぎて大号泣ですよ。
――『エースをねらえ!』はスポ根漫画ですが、感動的ですよね。
川口:僕の人生を変えました。というのも、それまでは排他的な演劇をやっていたんです。最後に全員死んでしまうとか、不幸を描く演劇が当時は流行っていたのです。ところが、無理して書いていたんでしょうね。ぜんぜん上手く書けなかったんですよ。そんなときに『エースをねらえ!』を読んで、俺はこっち(感動系)が好きなんだとわかり、主人公が一歩でも前に進む物語を書くようになりました。
清水:『エースをねらえ!』、ぜひ読んでみたいと思います。
3作目と4作目の間にスランプになった
――清水さんの文章はとても読みやすく、内容がスッと頭に入ってくるのが特徴です。
清水:地の文も短めで改行も多いですからね。あまり本を読んだことがない人にも伝えたい、ダイレクトに心を動かしたいと思っていて、それがわかりやすさに繋がっているのかもしれません。川口先生の文章も一文が短い。もっと詰まっている小説の方が多いですよね。
川口:僕なんか地の文が全然書けなくて困りました。でも、『コーヒーが冷めないうちに』を書き始めたとき、編集者から「小説にはルールがないので、思った通りに書けばいい」と言われて、肩の荷が下りました。清水先生の作品は字面を見ていても、本当に僕と似ているなと思います。同じ道を歩んでいるんでしょうね。
――お二人は、突然文章が書けなくなるなど、スランプに陥ったことはありますか。
川口:3作目と4作目の間にスランプになって、3年くらい書けなかったな。どう書けばいいのかわかんなくなって、何を書いても面白くないと思った時期があります。
清水:『さよならの向う側』も3作目で悩んでいます。同じ設定でシリーズをやっていると、登場人物も出し切ってしまい、舞台設定の変化を入れないと書けないという状況になりますね。
川口:シリーズものは3作目が山場です。演劇でもそうですが、3作目まで順調でも、4作目が難しい劇団が多いんですよ。
清水:今度4作目に突入しますが、方向性を変えないといけないと考えています。
川口さんの新作にも期待が高まる
清水:川口先生は違う設定の小説を書く予定はありますか。
川口:もちろん、挑戦はしたいですけれど、今のところはないんですよね。もともと小説家を目指していたわけではないし。でも、『コーヒーが冷めないうちに』の4作目を書いたときに振り切れたんです。それまでは同じ表現が多くて、同じことばかり書いているな、ネタもなくなったなと思って行き詰ったけれど、3巻の後に、1巻の続きのエピソード1.5みたいな感じで、間にある取りこぼしたものを書いていけばいいと開き直れた。物語が伝わるなら、今まで通りの方向でいいんじゃないかと思えました。
清水:読者のみなさんも、『コーヒーが冷めないうちに』の物語を読みたいと思っているんだと思います。
川口:“水戸黄門方式”と言っていますが、伝わるものがあるならそれでいいと開き直れて、4、5、6と続いています。4巻以降はスランプにはなっていないかな。ある程度、世間に認められた感も出てきたし。でも、新しいものは……そうだなあ、『天国映画館』を読んで、こういう発想があるんだなと刺激されたので、何か考えていきたいですね。
――川口さんをリスペクトする清水さんの作品から、川口さんが影響を受けています。
川口:『天国映画館』は設定が秀逸で、広がりを持たせられる物語だと思います。1日に本は200冊出るというけれど、そのなかで自分と同じ方向性の物語に出合えたのは素直に嬉しいですね。僕は本を読むのがめっちゃ遅いのですが、清水先生の本なら一気に読める。物語を忘れる前に続きを読めてしまうのが、凄くいいなと思っています(笑)。
――清水さん、川口さん、『天国映画館』をどんな人に読んでもらいたいですか。
川口:僕の本のテーマにも近いのですが、大切な方を亡くされた人に読んでほしい。人間は誰でも、大切な人と死別する機会が訪れます。亡くなった方がどうなっているのか不安に感じたり、一人で生きていく勇気をもらいたい人が読むと、希望が湧いてくると思います。
清水:僕もそういう方に読んでもらいたいと思っていますし、映画に興味があったり、本を普段読まない方にも手に取ってもらえる作品になればいいなと思っています。
■書籍情報
『天国映画館』
著者:清水晴木
価格:1760円
発売日:2024年8月20日
出版社:中央公論新社
『愛しさに気づかぬうちに』
著者:川口俊和
価格:1540円
発売日:2024年9月25日
出版社:サンマーク出版