漫画業界にも“働き方改革”?「るろうに剣心」作者休載にファン労りの声  かつては休載にクレームも 

るろうに剣心作者休載に労りの声

■『るろ剣』休載でも、あたたかい声多数

 集英社は9月30日、「ジャンプSQ.」で連載中の漫画家・和月伸宏の漫画『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-』を一定期間休載すると発表した。編集部によると、理由は和月の体調不良のためという。そして、「2024年6月号から続けて休載をいただき、毎月掲載に向けた執筆体制を模索してまいりましたが、編集部と和月先生で協議し、改めて万全な状態で連載が続けられるように、一定期間休養させていただきます」と説明されている。

 発表に対し、『るろうに剣心』のアニメでキャラクターデザインを務めたアニメーターの西位輝実が「激務のなかキャラクターの監修ありがとうございました。お大事にしてください」とコメントを寄せたほか、業界関係者からも和月の回復を願う声が寄せられている。また、ファンからも「再開されるのを楽しみにしています!」「和月先生おだいじに」「治療に専念されて完全に完治されることを願っております」と、体調を気遣うメッセージが投稿された。

 これを見て、記者は「漫画家に優しい、良い世の中になったなあ」と実感している。というのも、記者が漫画を読みまくっていた1990年代、週刊少年漫画雑誌、特に「週刊少年ジャンプ」では休載は絶対に許されなかったためである。それは編集部が許さなかった、というよりも読者が許さなかったと言っていいかもしれない。当時の子どもたちは、「ジャンプ」を1秒でも早く読みたかった。学校が終わるとすぐに書店に走り、「ジャンプ」を買う。そんな風景がどこでも見られたのである。

 特に、看板作品の休載は雑誌の売れ行きを大きく左右しただろうし、突然の休載となると、読者からクレームが寄せられることも日常茶飯事だったと思われる。『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~』(宮崎克・吉本浩二/著、秋田書店/刊)には手塚治虫の『ブラック・ジャック』が連載されていた当時の「週刊少年チャンピオン」の編集部が描かれている。『ブラック・ジャック』が休載した際、編集部に読者からクレームの電話がかかってきた描写がある。

 漫画家や編集部の間に、辛い時は無理をしなくてもいい、休載してもいい風潮を生み出した功労者はおそらく冨樫義博と言っても差支えはあるまい。『HUNTER×HUNTER』はもはや休載そのものがネタになっているし、Xで冨樫自身がUPする原稿の進捗状況を、読者はあたたかく見守っている。1980年代初頭、江口寿史は『ストップ!!ひばりくん!』の原稿を落として逃亡しただけで連載が打ち切りになった。そう考えると、時代は変わったものだなあと思う。

■漫画の発表の場が雑誌から単行本へ?

 ただ、休載が問題視されなくなったということは、それだけ人々が雑誌を読まなくなったためと言えるし、そもそもリアルタイムで漫画を読むことにそれほど価値を見出さなくなった結果と考えることもできる。『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』の初版の発行部数は、「ジャンプ」の発行部数をゆうに超えていた。人々は雑誌ではなく、単行本で漫画を読むスタイルが主流になっている。

 漫画の月刊連載や週刊連載が盛んになったのは、漫画雑誌が急速に盛り上がった1960年代以降のことだ。それ以前、1945年の戦後間もない時期から1950年の半ばくらいまでは、漫画は描き下ろしの単行本が主流であった。雑誌の衰退が著しいなか、もしかすると、これからは描き下ろし単行本(電子書籍も含め)のスタイルで発売される漫画が登場するかもしれない。そのほうが漫画家への負荷がかからない理想的な形だと思うが、どうだろうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる