ポケベルがまさかの爆弾に……クリスマスツリー、たばこ缶、石炭、身の回りにある偽装爆弾の恐ろしさ

ヒズボラのポケベル爆発 偽装爆弾の恐怖

日本でも大事件に、テロで多用される偽装爆弾

 また偽装爆弾という点で言えば、基本的にはテロリストの武器でもある。日本国内でも新左翼の活動が激化していた時期には用いられたケースがあり、有名なところでは1971年の12月24日に発生した「新宿クリスマスツリー爆弾事件」がある。

 この事件は同年9月から12月にかけて行われた一連の爆弾闘争の一部とされている。事件はクリスマスイブで賑わう新宿三丁目交差点に程近い、警視庁四谷署追分交番付近で発生した。この交番からおよそ10mほど離れた明治通りの歩道で甘栗を売っていた男性が、交番の脇に高さ50㎝ほどのクリスマスツリーが入った紙袋を見つけ、交番勤務の警察官に届けたという。

 クリスマスらしい忘れ物としてしばらく紙袋は放置されていたが、爆発の約5分前に紙袋が交番の裏に移されており、不審に思った警察官が紙袋を覗き込んだところで爆発した。爆弾は塩素酸塩系の薬品を使用したもので、素材には水道用のT字パイプを使用。乾電池と時計を使った時限装置が取り付けられていたという。

 これ以外にも当時の新左翼はたばこのピース缶を使った偽装爆弾なども使用しており、身の回りの品に見せかけた爆弾を使った爆弾テロは1970年代には頻発した。テロリストにとって、人目を引かずに設置でき、任意のタイミングで起爆できる偽装爆弾は、非常に使い勝手のいい武器だったのだ。

市民を巻き込む偽装爆弾

 しかし偽装爆弾が有効なのは、戦線後方でのサボタージュやテロといった目的にとってである。敵地に潜り込んでの破壊工作は、状況的には市民社会でのテロに近い。敵味方に圧倒的な戦力差があり、武器も自由に手に入らないという状況でこそ、偽装爆弾は使われてきた。

 今回のヒズボラのポケベルが爆破した事件は、それとは様相を異にする。ポケベルを偽装爆弾に仕立て上げたのはテロリストや工作員といった相対的に不利な立場にいる集団ではなく、イスラエルの情報機関であるとされている。社会に衝撃を与えるための苦し紛れの爆破ではなく、敵集団に打撃を与えるための能動的な攻撃として、偽装爆弾を使った前代未聞の作戦が行なわれたのだ。

 しかも、その方法は非常に規模が大きいものだ。ヒズボラによるポケベル購入の情報をつかみ、秘密裏に取引に介入し、疑われないようなポケベル端末を用意してどこかのタイミングで爆薬と起爆装置を大量に仕込み、通常のポケベルと同様にヒズボラ内に行き渡らせる。このような大規模な作戦を実行できるのは、国家がバックについている経験豊かな情報機関だけだろう。

 なんにせよ、今回の一件は「偽装爆弾を使った破壊工作」と聞いて想像するものとは、規模と手間が桁違いなのは間違いない。実行までには念入りな準備と予算、そして優秀な工作員たちが必要だったはずだ。それだけの手間と金と時間を注ぎ込んで実行するのが、周囲の被害を考慮に入れないテロまがいの大規模破壊工作だったという点、そして子供を含む多数の被害者が出ている点には、まったく暗澹たる気持ちになる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「その他」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる