【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 悪女モノから中華退魔ファンタジーまで、今読みたい5作品

【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー

白川紺子『烏衣の華』(角川文庫)

 テレビアニメ化もされた白川紺子の『後宮の烏』(集英社オレンジ文庫)は、同じ世界観をもつ作品が出版社をまたいで展開中だ。講談社では『海神の娘』が刊行されている一方で、KADOKAWAから『烏衣の華』が発売された。霊耀は巫術師の名門・封家の嫡男だが才がなく、稀代の巫術師と呼ばれる月季を許婚にすることで立場を保っている。ある日、月季は鼓方家から仕事の依頼を受け、霊耀を伴って楊柳島へ出かけた。依頼人に取り憑いた女の幽鬼の調査を始めるが、さらなる悲劇が起こり――。

  圧倒的な巫術の才をもつ月季だが心の中にもろい部分があり、霊耀から疎まれていることを自覚しながらも、幼い頃に助けてくれた彼のことを慕っている。だが真面目で堅物な霊耀はその想いには気づかず、自分にはない力をもつ許嫁に対して嫉妬が混じった複雑な感情を抱いているのだった。月季と霊耀の関係性の変化と、幽鬼にまつわる謎解きが魅力の中華退魔ファンタジーである。もちろん単独の作品としても楽しめるが、シリーズ読者にとっては聞き覚えのある土地や人物名が登場して思わずニヤリとさせられる。『海神の娘 黄金の花嫁と滅びの曲』(講談社タイガ)も刊行されたばかりで、こちらもあわせてチェックしたい。

文月蒼『水槽世界』(飛鳥新社)

 『水槽世界』は、飛鳥新社が新たに立ち上げたライト文芸の新レーベル「with stories」の創刊ラインナップを飾る作品。物心ついた頃から人の心に棲みつく魚が見える高校生の海人は、魚を通して人の本音や善悪を区別できる厄介な能力ゆえに、対人関係をうまく築けず学校内でも孤立していた。ある日、彼は美人で誰にでも分け隔てなく接するクラスメイトの澄歌を道で見かけ、能力を生かして彼女の危機を救う。思いがけないかたちで澄歌と関わり、自分の秘密まで打ち明ける羽目になった海人の日常は、これをきっかけに大きく動き出すのだった――。色鮮やかな魚に囲まれた澄歌を筆頭に、海人の目を通して語られる世界には多種多様な魚が泳ぎ回り、水槽越しに世界を眺めるような幻想的なヴィジョンを生み出している。

  透明感にあふれる独創的な情景を立ち上げる筆致が鮮やかで、人の魚を食い散らかして物語に不穏な影を投げかける巨大クジラに立ち向かうクライマックスは、陶酔感とカタルシスを誘う。心が純粋でキラキラした笑顔がまぶしい澄歌と、陰キャな海人が繰り広げる不器用でもどかしい恋、そして二人の成長ぶりも本作の大きな見どころだ。夏を迎えるこれからの季節にぴったりな、涼やかで美しい青春ファンタジーである。

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