【漫画】博士と暮らしてきたアンドロイド娘が涙を流した理由ーーSF漫画『AOI++』のあたたかいサプライズ
ーー創作のきっかけを教えてください。
水田:本作は石垣島に旅行した際に創作しようと思った作品で、物語の舞台はそこをモデルとしています。島とロボットの組み合わせってなんかいいよねと思い、ロボットに関するお話にしました。ロボットは都市部にいるようなイメージがありますが、潮風が吹く田舎町にロボットがいるというギャップがいいなと思って。
ーー作中ではアオイさんが哲学的に考えるシーンが多く描かれていたかと思います。
水田:友だちが「何故人間はキスをするのか」と話していたときがあり、私もなぜだろうと思いながらネタ帳にそのことを描いていました。本作を描くためにそのことを振り返るなか、おそらく映画や漫画から学習した結果、愛情表現としてキスをすることもあるのではないかと考え、本作の物語をつくりました。
ーー本作の構成はどのような順序で考えた?
水田:最初に博士との別れを迎える章を描き、そのあとに冒頭と最後の数ページを描き足しました。アオイが涙を流すシーンを描いたあと、作品としてなにか“足りない”という感じを覚えて。アオイの成長物語として描くために、最初と最後の章を描きました。
ロボットが大人になることが面白いと思ったという背景もあります。本来ロボットは姿かたちが変わることはないです。自身を認めつつも自分は人間とそんなに変わらないと納得して前へ進み、見た目も大人になる。そんなラストシーンになればと考えていました。
ーー物語終盤、窓枠の中にフキダシがあるシーンが印象に残っています。
水田:これは『映像研には手を出すな!』を参考にしました。最初は扉の外側にフキダシを置いていたのですが、閉まっているのに音がクリアに聞こえてくるのは不自然だと思って。当時『映像研には手を出すな!』で窓の中にフキダシがあるシーンを見て、こんなフキダシの入れ方があるんだと思い、本作でも描いてみました。
ーーロボット・アオイさんの成長を描くなかで意識したことは?
水田:とにかく最後までアオイを笑わせないことです。本作の最後に初めてアオイが笑うシーンを描きたいと思ったからですね。笑わなくてもアオイが魅力的に見えるように描きました。
成長を描くうえでのグラデーションを大きくしたいと思っていて。もしも中盤でアオイが笑っていたら、大人になったアオイの変化が小さくなってしまうと思ったのです。大人になったアオイがより魅力的に、イキイキと見えるように、作中で使用する表情にはすごくこだわりました。
ーー先ほど水田さんが話した、中盤の物語だけでは“足りない”という感覚を覚えた背景は?
水田:人に読んでもらうためとしてはもちろん、自分が読んでいて面白いかどうかとして“足りない”と思いました。例えるなら食事のあと、予期せぬデザートが提供されるような作品。主人公の物語のサビとなるパートが終わってから、実はもうひとつパートがあるような作品が好きです。
アオイと博士の別れで本作は終わりを迎えますが、そのあとに大人になったアオイのエピソードがあったら満足感が高いなと思って。ある種のサプライズがある構成の物語が私は好きで、制作時に意識しています。
ーーまさに未来のアオイさんが描かれた終盤はあたたかな気持ちを覚えたサプライズでした。
水田:ゲーム『ポケットモンスター 金・銀』のクリア後、ジョート地方だけでなくカントー地方にも行けるとわかったときの感覚ですね(笑)。
あとは映画の最後、スタッフロールの背景で描かれる登場人物たちの後日談が好きで。120%のものを自分にくれると言いますか、映画館を出たあとに「面白かった、最高だったなぁ」という気持ちにさせてくれる感覚。漫画を描く際には常にその感覚を大切にしています。
ーー多くの作品から感動を受けるなか、自身もサプライズする側になりたいと思ったのはなぜ?
水田:友だちを驚かせるのが好き。誕生日のサプライズとして、めちゃくちゃ凝った謎解きゲームをつくったりとか、誰かに驚いてもらうことが好きなんです。喜ばせたい、というよりも驚かせたい。面白い映画って見ていると驚くじゃないですか。驚いて、面白い。それを私もやりたいです。
ーー今後の目標を教えてください。
水田:現在『裏サンデー』(小学館)で連載している漫画『アヤシデ怪神手』を描くなか、とにかく毎週毎週、読者を驚かせられればいいなと思います。できる限り、各話で自分のすべてを詰め込んでいきたいです。あと『アヤシデ怪神手』の単行本が売れたら超嬉しいなと思っています。