鳥山明作品に貫かれた圧倒的「センス」と人間味ーー漫画編集者が分析する、世界的ヒットの要因

鳥山明の圧倒的「センス」を分析

 『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』などの大ヒット作を生み出した世界的漫画家・鳥山明さんが3月1日、68歳で急逝した。8日に鳥山さんのプロダクション「バード・スタジオ」が発表して以降、世界中のファンやクリエイターのみならず、スポーツチームや各国政府からも哀悼の言葉が寄せられている。

 鳥山さんの作品はなぜこれほどまでに世界を魅了しているのか。漫画編集者で評論家の島田一志氏は「センスがいい、の一言に尽きる」と、その作家性を分析する。

 「1980年に週刊少年ジャンプで連載を開始した『Dr.スランプ』はギャグ漫画であり、下ネタやお色気ネタも含まれていましたが、下品な印象がありませんでした。当時のジャンプは鳥山先生と江口寿史先生のおかげで、そうとうおしゃれなイメージがあった。ギャグ漫画はどこか下品だったり、人を傷つけるような表現が含まれることが多いものですが、洗練された絵と作劇のセンスがそれを感じさせなかったんです」

 鳥山さんの類稀なセンスは、ジャンルレスに発揮された。「少年ジャンプという大メジャー誌で、ギャグ(『Dr.スランプ』)とSFバトル(『ドラゴンボール』)という全く違うジャンルで大ヒットを飛ばしたのは、想像以上にすごいことです」と、島田氏は振り返る。

 「鳥山さんの一世代前だと、永井豪さんが『ハレンチ学園』と『マジンガーZ』を大ヒットさせました。同時代なら、『キン肉マン』が最初はギャグ路線でスマッシュヒットし、その後、シリアス路線にシフトして大ヒット。また他誌では、高橋留美子さんが『うる星やつら』でラブコメ、『らんま1/2』でコメディとバトルを描き、『犬夜叉』でシリアスなバトルを描いて大ヒットを記録しています。いずれも怪物的作家で、大変珍しいケースです。鳥山さんも多くの引き出しを持ち、それを具現化するセンスとパワーがありました」

 その圧倒的なセンスは、後進の作家に多大な影響を与えた絵柄に色濃く表れている。それは、周囲のトレンドから独立して貫かれたものだったという。

 「ある時期から日本の漫画は、アメリカン・コミックスのニール・アダムス、バンド・デシネで言えばメビウスの影響を受けた作品が増え、前者では原哲夫さん、後者では大友克洋さんが代表的な作家と言えます。いずれもタッチは違えど描線が多いリアリズムの絵であり、昔ながらの線が少なく記号的な絵は、一気に古いものになっていました。

 鳥山さんも海外のコミックの影響を受けつつも、大友さんや原さんのような描き込みの多いリアリズムには向かわずに、どんどんシンプルな描線による記号的な絵になっていった。ギャグ漫画である『Dr.スランプ』はまだしも、バトル漫画化した中盤以降の『ドラゴンボール』でもそれを貫いたのは、あらためてものすごいことです。記号的でも決して平面的にならず、むしろ立体的でさえある。プラモデルがお好きだったことの影響もあるかもしれませんが、メカなどは実在するかのような立体感。トレンドに流されることなく、シンプルで記号的な絵を貫いたまま、かつ多くの読者の支持を得たんです。言うまでもないことですが、プロが見てもとんでもなく絵のうまい作家でした」

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