『葬送のフリーレン』ヒンメルとフリーレンは“同じ夢”を見ていたのか? 幻の結婚式を考える

フリーレンとヒンメルは同じ夢を見ていた?

※本稿は『葬送のフリーレン』の単行本未収録のエピソードに言及しています。連載未読の方はご注意ください。

 魔王を倒した勇者一行の”その後”を描いた『葬送のフリーレン』。2023年1月に「週刊少年サンデー」に掲載された第107話より「女神の石碑」編がはじまり、53年前へとタイムリープしたフリーレンは、ヒンメルやハイター、アイゼンらと再会することになった。一行の行く先を阻む魔族らとの戦闘シーンも印象的だったが、そのなかでも、七崩賢・奇跡のグラオザームとのバトルで描かれたとあるシーンが話題になった。

 そのシーンとは、フリーレンとヒンメルの“結婚式”である。正確に言うとグラオザームの理想の夢を見せる魔法による幻影だが、彼らは同じ幻影の中にいたのだ。ここで疑問が生まれるのは、なぜ同じ結婚という夢を見ていたのかということ。本稿では、3つの可能性からその理由を考えていきたい。

 1つの可能性として、なんらかの条件が揃ったことにより同じ幻影の中にいたのではないか。まず、グラオザームの魔法を説明すると、彼の使用する精神魔法はきわめて強力と言われている。それはかけられた者が決して叶わないと諦めた「幸せな夢」でさえも実現し、行動不能に陥れるある種の”呪い”のような効力を持つ。それゆえ、フリーレンのような精神防御に長けた魔法使いでも防ぐことは厳しい。

 シーンをみるに、同じ時間、同じ場所で術にかけられるという条件で、同じ幻影の中に閉じ込めることができると考えられるだろうか。しかし、「その者が思い描く理想の夢を見せる」という魔法の特性上、その場に居合わせただけで同じ夢を見せられるとは考えづらい。

 そこで浮上する可能性が、多くの読者が淡くそう願っているように、「フリーレンとヒンメルが同じ願望を抱いていた」のではないかということだ。「久遠の愛情」という花言葉を持つ鏡蓮華の指輪を贈ったエピソードや、フリーレンのことを「片時も忘れたことはない」と語ったことから察するに、まず、この夢はヒンメルが叶えたかったものだということは間違いないだろう。

 では、フリーレンはどうなのだろうか。前提として彼女はエルフであり、恋愛感情や生殖本能が欠落している種族として描かれている。この種族や寿命(年齢)、恋愛感情への理解の乏しさは、彼らの間に大きな隔たりを生むと同時に、ヒンメルにとっては生涯をともにする夢を諦める要因、そしてフリーレンにとってはそもそも結婚の夢を持たない要因になると考えられる。

 それらの要素から考えると、フリーレンにとってヒンメルは人を知るための旅をはじめさまざまなきっかけを与えた特別な存在であるが、彼女の性格からみても、あえて「結婚」という枠にはまった関係を求める可能性は低いのではないだろうか。

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