わたしの幸せな結婚、お隣の天使様、薬屋のひとりごと……2023年のライトノベルシーンを振り返る
ライトノベルは2023年も豊富な話題に彩られながら、様々な人気シリーズや意欲的な新シリーズを出してきた。どのようなライトノベルが人気となったり、話題に上ったりしたのかを振り返ってみた。
2023年のライトノベルシーンを振り返る時、顎木あくみ『わたしの幸せな結婚』(富士見L文庫)と佐伯さん『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』(GA文庫)、そして日向夏『薬屋のひとりごと』(ヒーロー文庫)の盛り上がりは外せない。いずれも2023年中にTVアニメが放送された作品で、その内容に引きつけられた人が原作小説を読み始め、売上ランキングに既刊本がズラリと並ぶ“現象"を起こした。
『わたしの幸せな結婚』は、名家に生まれながらも継母や継妹に虐げられ、不幸な立場にあった斎森美世という少女が、冷酷無慈悲と噂されている久堂清霞という青年の元に嫁ぐことになる、というストーリー。美世はそこで自分の居場所を見つけ、自分自身の能力にも目覚めて清霞にとって大切なパートナーになっていく。
心ときめかせるシンデレラストーリーということで、女性の読者を誘って新刊が出るたびに売れ行きを伸ばしていたが、3月の実写映画化に続く7月からのTVアニメ化で人気が爆発した。『わた恋』の評判を受け、薄幸の少女が苛烈な運命に直面するシチュエーションを持つ他の作品にも注目が集まった。クレハ『鬼の花嫁』シリーズ(スターツ出版)や飛野猶『捨てられた花嫁と山神の生贄婚』シリーズ(スターツ出版)、道草家守『龍に恋ふ』シリーズ(富士見L文庫)などで、次にどの作品が映像化からのブレイクとなるか、興味津々だ。
佐伯さん『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』も、1月からアニメ化されるや石見舞菜香が演じる「天使様」こと椎名真昼という女子高生の愛らしさに打たれる人が続出。既刊本がランキングにズラリと並び、果ては宝島社の『このライトノベルがすごい!2024』で文庫部門、ウエブアンケート、キャラクター女性部門、キャラクター男性部門、イラストレーター部門で1位という史上初の5冠を達成した。
学校では天使様と呼ばれて人気の真昼だったが、なぜか一人暮らしをしていて同じマンションの隣に住んでいる藤宮周がそのことに気付く。周が自炊も洗濯もあまりしないガサツな暮らしをしているのを見かねてか、真昼が食事を作ったり部屋を片付けていたりするうちにだんだんと仲が深まっていく。現実に起こったら男子にとって嬉しいことこの上ないシチュエーションを夢見させてくれるシリーズだ。
元からあったTVアニメ化で人気が大爆発したのが『薬屋のひとりごと』だ。人さらいにあって後宮に下女として放り込まれた猫猫が、持っていた薬学や医学の知識を活かして後宮で起こる事件の謎を解くうちに、何やら秘密がありそうな宦官の壬氏に興味を持たれていくというストーリー。アニメでは原作の1巻を、1クールかけて丁寧に描いて、後宮に生きる女性たちの苦しみや楽しみを浮かび上がらせつつ、猫猫と壬氏の時に甘く、時にコミカルな関係を見せてくれた。
原作の方は、西都での大事件を経て都に戻った猫猫や壬氏の周りで、新たな事件が起こって来ている。ここまでアニメが進むかどうかは人気次第だが、伏瀬『転生したらスライムだった件』(GCノベルズ)や大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(GA文庫)が原作を余さず映像化して長い人気を得ているように、『薬屋のひとりごと』にも長期シリーズへの期待がかかる。
ここに挙がった『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』は、外伝やスピンオフも含めたシリーズ作品13冊を、13ヶ月連続で刊行し続けるという偉業に挑んで見事に達成。この中には、主人公のベル・クラネルが、彼の身を狙う女神フレイヤが率いるファミリアを相手に戦争遊戯(ウォーゲーム)を戦うという18巻があって、最初から最後までクライマックスといったテンションを持つストーリーを読ませた。
『転生したらスライムだった件』は、小説投稿サイトから登場した異世界転生ストーリーへの先駆的な人気を維持したまま、リムルの新たな戦いを描いてますます物語世界を広げている。同じく先駆的な存在として高い人気を維持してきた香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(TOブックス)は、12月9日発売の最新刊で遂に完結。兵士の娘として生まれたマインが、前世からの本好き魂を本が貴重な世界で満たすべく奮闘した果てに地位を得て、望みもかなえる一種のサクセスストーリーを描ききってファンを堪能させた。展開を追うようにアニメ化も進んでおり、新刊はでなくてもランキングに入ってくる可能性は高そうだ。
こうした人気シリーズの列に加わることを狙って、新しい作品も続々と登場してきた。その中で、注目度トップに上がりそうな作品が、鵜飼有志『死亡遊戯で飯を食う。』(MF文庫J)だ。少女たちが命をかけて競い合うデスゲームがショービジネスになっている世界で、幽鬼という名の少女がさまざまゲームに挑んで勝ち残っていくというストーリー。殺人をゲーム的に描く不道徳さを超えて、ヒリヒリとした状況に自分を置きたい気持ちへの関心を誘われるシリーズだ。