たった二つのルールだけで驚くほど文章力が向上! 元カリスマ校長による画期的な文章メソッド「R80」

画期的な文章メソッド「R80」

 茨城の元カリスマ校長にして日本史教師・中島博司氏による文章メソッドが全国で爆発的に広まっている。現在、全国推定1000校で導入され、進学校から教育困難校まで、幅広い偏差値の生徒のあいだで驚くべき効果を発揮し、成績が向上しているのだという。

 そのメソッドとは「R80(アールエイティー)」。ルールは、①2文構成で80字以内で書く、②2文目の最初に必ず接続詞を使う、のたった2つのみ。それだけで自分の考えを論理的に書けるようになるという。

 この度、飛鳥新社から刊行された『R80(アールエイティー)自分の考えをパッと80字で論理的に書けるようになるメソッド』では、このメソッドが生まれた背景や効果を発揮する理由などが記されている。

 担当編集者は、謎の覆面YouTuber・雨穴氏の小説『変な家』をはじめ、ベストセラーを数々と手掛ける杉山茂勲氏だが、実は中島氏の高校での教え子だったとのこと。杉山氏がとある機会に母校の参観に訪れた時に、生徒全員が授業の最後に振り返りをスラスラと書く光景に衝撃を受け、恩師に執筆を依頼することになった。

 近年、大学入試改革が進み、子どもたちに必要とされる学力のあり方が変化するなかでも、R80は絶大な効果を発揮するとのこと。一体、このメソッドは何が画期的なのだろうか。中島氏に話を聞いた。(篠原諄也)

知識よりもその場で考える力やコミュニケーション力が大事

ーー昨今の大学入試改革によって、入試や教育のあり方はどのように変わっていますか?

中島:大学入試改革は2020年度から本格的に開始しました。まず、センター試験が大学入学共通テストになって、出題傾向が大きく変わりました。マークシートなのですが、単純な知識問題が減って、読解力が必要な文章問題が増えました。

 私は日本史の試験はもう40年ほど解き続けていますが、そのうちの37年間は教科書の内容を暗記しているだけでほとんど解けていたのです。ところがここ3年、しっかりと読まないと解答できない問題が4割ほどあります。私でも時間がかかるので、受験生は大変でしょう。

 この3年間で徐々に変わってきているのですが、これからさらに変化するでしょう。というのは、今の高校3年生は旧課程最後の学年なんです。高校2年生から「新学習指導要領」という新しいカリキュラムシステムになりました。最初の1年目は激変緩和ということで、変化は抑えられるでしょうが、その次の年、つまり今の高校1年生が受験をする年には大きく変わるでしょう。

ーー同時に推薦入試などの制度も変わったそうでした。

中島:それまでは推薦入試やAO入試など「入試」と言っていましたが、今は「選抜」と呼ばれるようになりました。これはちゃんと「セレクションをする」という意図の表れです。かつての推薦入試やAO入試では、面接と書類だけで合格することも多く、学力が伴っていないことがありました。大学入学後に、補習で高校課程の内容を学ぶような事例まであったのです。

 だから推薦であっても、しっかり学力を担保した上で入学してもらおうと。そこで今、選抜方法として重きを置かれるのは小論文です。また、面接も型にはまったものではなく、その場で考えさせるような問題になっている。大学によっては、実際に授業を受けてもらい、その翌日にプレゼンを課すようなところもあります。

ーーなぜ、そのように入試は変わったのでしょう?

中島:ひとつは社会のニーズの変化があります。高度経済成長期以来、知識を多く持っている人が良い仕事ができる時代が長く続きました。しかし、世の中は変わってきて、知識よりもその場で考える力やコミュニケーション力が大事だとされるようになりました。

 また、世界で日本の生徒たちの学力が相対的に落ちたこともありました。PISA(学習到達度調査)という国際的な学力調査で、日本の順位が落ちてしまって「PISAショック」などと呼ばれました。そこで何とか教育を変えないといけないとなったのです。ちなみに先日、今年のPISAの結果が出て、日本の順位は上がったようですね。これは良いことだと思いますが、本当に大切なのはこれからでしょう。PISAでは測れない力もつけていかないといけません。

 いずれにせよそうした背景があって、大学入試を変えることによって、高校や中学の授業改革を実行するようになったのです。

1文40字は非常に絶妙な数字

ーー今、どのような力が必要とされているのでしょう?

中島:学力の要素のなかでも「知識・技能」だけではなく、「思考力・判断力・表現力」が非常に大事になってきました。特に推薦はその力を試すような選抜方法になっています。これは従来のように先生が黒板に板書をして、生徒がノートに取るような、一方通行の授業では太刀打ちできません。

ーーそうした力を養う上でも、R80が効果を発揮するそうですね。一体どういうメソッドなのでしょうか?

中島:まず、何のために作ったのかというと、私の研究するアクティブ・ラーニング(能動的な学習)を学力向上につなげるためでした。溝上慎一・元京都大学教授の定義によれば、アクティブ・ラーニングとは「書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」ものである。私は「話す」や「発表する」と比較すると、「書く」があまり注目されていないように思ったのです。そこで2016年の5月に思いついたのが、R80でした。

 まずは言葉から解説しましょう。Rは「リフレクション(振り返り)」と「リストラクチャー(再構築)」の頭文字で、80は80字以内で書くということです。R80は「アールエイティー」と読みます。

 ルールはたった2つだけです。2文で書くこと、その2文を接続詞で結ぶこと。非常にシンプルですよね。文はそれぞれ40字ほどが理想的ですが、場合によってはどちらかが多かったり少なかったりしてもかまいません。


 実際に中高生がどんなR80を書いているか、一例をお見せしましょう。たとえば中学2年生。技術家庭科の授業で食品添加物について学び、最後に「消費者としての私の選択は」というR80のテーマが与えられました。その時点で授業終了まであと3分。チャイムが鳴るまでに全員R80を書き終えました。こんな感じです。

家族のこと、自分のことを考え、添加物はで
きるだけ避けていきたい。しかし、全て避け
るのは不可能であるため、値段、品質などを
自分自身で判断していくべきである。

消費者としての私の選択は、無関心型の消費
者である。なぜなら、添加物は特別に体に悪
いというわけでもなく、適量なら安全なので
避ける必要はないと思ったからである。

※1行20文字、一段落が約80文字。接続詞を太字にしている。

 書くことは訓練が必要なのですが、やはりみんな抵抗があるので、まずは毎回の授業でこの非常にシンプルなメソッドを取り組んでいく。最初は5分かかっていたのが、訓練をしていくと、1、2分でスラスラと書けるようになります。

ーーなぜ、80字なのでしょうか?

中島:私は日本史の教科書を執筆したことがありました。そこで編集長から「教科書は1文50字がわかりやすく理想的だ」と言われたのです。すると合計100字になりますが、3ケタの数字だと生徒にとって多く感じると思いました。だから少し減らして、80字にしました。

 この1文40字は非常に絶妙な数字であることが、あとからわかってきました。例えば、ニュース番組で読み上げる原稿は1文40字前後。それから、Wordなどの文章ソフトの横一行は初期設定で40字。今話題のChatGPTも、1文は40字程度。読みやすい文章に出合った時に、意識的に数えてみると40字前後のことが非常に多いんです。すっと耳に入ってきて、理解しやすい長さなのでしょう。

 もうひとつ、成功した理由として「R80」という文字のデザインのよさがあったと思います。末広がりの「8」が真ん中に来ると、非常にバランスがよくてきれいなのです。こうした見た目のよさは大事だと思いますね。

ーー2つ目のルール、つまり2文目の最初に接続詞を使うのはなぜでしょうか?

中島:これは論理性のある文章を書かせたかったからです。文章のプロは接続詞をそれほど使わなくても、きれいで論理的な文章が書けます。しかし、このメソッドは小学生、中学生、高校生向けに作りました。まずは接続詞を使って、ちゃんと1文目と2文目の関係性を考え、自分なりに伝えてほしいと思いました。

 R80において2文目の最初に使用する接続詞には、次のようなものがあります。

・順接(したがって、ゆえに、だから)
・逆接(しかし、だが、ところが)
・並列(また、ならびに、かつ)
・対比(一方)
・換言(つまり、すなわち)
・理由説明(なぜなら)

 R80は接続詞を使うことで、読む人に対して補助的に、もっと言うなら強制的に、展開を示していきます。そのことで論理的な文章にしていくわけです。

ーーそうした論理力向上が国語に限らず成績向上につながるそうですね。具体的にどういう接続詞を使いますか?

中島:最強の接続詞は「なぜなら」です。最初に結論を述べて「なぜなら~だから」と、理由を述べる定型の文章が書けるようになります。

 私は日本史の大学受験の指導もしていましたが、東京大学や筑波大学などの試験では、記述式問題が出ます。そこではよく「一方、」を使いなさいと教えていました。このたった3文字で文章を展開し、比較することができるんです。しかも文章がかっこよくなりますよね。高校生でもまるで教授が書いたような文章になる。

 例えばこんな感じです。

前期古墳には銅鏡・勾玉など呪術的副葬品が
多く、被葬者は司祭者的性格であった。一方
中期古墳には鉄製の武器・武具が多く、被
葬者の武人的性格が強まったことがわかる。

 生徒がうまく接続詞を使えない場合は、最初は先生が指定するのもひとつでしょう。この問題については「なぜなら」「しかし」を使って書いてみましょうと言うんですね。そういう工夫をすると生徒もだんだん慣れてきて、いろんなパターンをスラスラと書けるようになってきます。

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