鬼滅の刃、まどマギ、SAO……人気アニソンの歌詞に“梶浦語”アリ アニソンファン必読の全曲詩集『空色の椅子』

人気アニソンの歌詞に“梶浦語”アリ

 『鬼滅の刃』をはじめ、『魔法少女まどか★マギカ』『Fate/Zero』『機動戦士ガンダム SEED』『ソードアート・オンライン』など数多くのアニメ作品で、劇伴やテーマソングの作詞・作曲を務める梶浦由記が、活動30周年を記念した初の書籍『空色の椅子』(飛鳥新社)を刊行。この30年に手がけた全230曲の歌詞を全て掲載したほか、書き下ろしのエッセイ、自身が厳選した30曲についてのセルフライナーノーツを掲載。“梶浦語”と呼ばれる造語の秘密、彼女がプロデュースを手がけたKalafinaついてや歌詞に込められた思いを振り返りながら、自身の半生が綴られている。

 本書を手に取ってまず驚くのはそのボリュームである。総ページ数は530ページを越え、その大半は彼女が手がけた楽曲の歌詞で、彼女がプロになっての第一作目であるSea-Sawのデビュー曲「Swimmer」から、milet×MAN WITH A MISSIONの「コイコガレ」(「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編エンディングテーマ)までが、発表順に並べられている。

 歌詞のタイトルだけをパラパラと見て行くと、実にシンプルで簡単な言葉が多く使われていることに気づく。平仮名、カタカナの一言であったり、英語も中学で習うような簡単なワードが多い。たまに四字熟語のような曲名もあるが、そういう時は敢えて思い切りよく難解に振り切っているといった印象だ。シンプルであるということは、つまりそれだけ多彩な解釈の余地があるということ。歌詞も同様で、シンプルな言葉一つひとつを手がかりにしながら、行間に隠された意図や物語を想像することができる。それは、梶浦の歌詞の醍醐味の一つだ。

 本書のエッセイでは、そうした作詞に対する考え方として、リヴィア・デイヴィスの短編集やボズ・スキャッグスの楽曲などを例に挙げながら、「歌詞の捉え方は聴き手のものである」と綴る。さらに「表現することは、丹精込めて作った何かを虚空に放つこと」とも。楽曲が発表されるたびに、「ここはこういう意味なんじゃないか」「ここは何々を示唆しているはずだ」などと多くのファンが考察を戦わせる様子を、微笑ましそうに眺めている梶浦の様子は決して想像に難くない。

 また、アニソンを作る時の心得として、テーマを突き詰めすぎず、独りよがりにもしないことを挙げている。「視聴者としてのめり込んでいる時も、ふと冷めた一瞬も物語の一員でいられるような音楽」が、梶浦にとってのアニソンなのだと言う。またアニメのテーマソングは90秒と決まっていることなど、アニソンには多くの制約があり、その中で試行錯誤しながら研ぎ澄まされていった経験を、“縛りの修行”だったとうそぶく。そうした中で生まれたのが、“結末を濁す美学”と、“梶浦語”と呼ばれる造語の多用だ。前者は聴いた人の想像する楽しみを最後まで残してあげるということ。後者は、曲のコーラスや劇伴に多く使用された手法で、時代や国、文化を特定せずアニメのセリフや、番組のナレーションの邪魔をしないメリットがある。本書のエッセイでは、そうしたアニソンに対する考えや苦労も綴られる一方、父親の影響で好きになった“オペラ”や、ビートルズの“コーラスの積み”が、梶浦が手がけるアニメ音楽の原点になっていることも明かされている。

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