ロック・スターはもうこの世にいない? 誕生から終焉までを「緻密」かつ「真摯」に迫った書籍を読む

アンコモン・ピープル ロック・スターの誕生から終焉まで
著:デヴィッド・ヘップワース 訳:伊泉龍一『アンコモン・ピープル ロック・スターの誕生から終焉まで』(駒草出版)

ロック・スターの時代は、カウボーイの時代のように過ぎ去ってしまっている

 音楽ジャーナリストや作家として知られるデヴィッド・ヘップワースの最新刊『アンコモン・ピープル ロック・スターの誕生から終焉まで』(駒草出版)の序文は冒頭の文章で始まる。日本でいえば、「サムライの時代のように過ぎ去ってしまっている」と言い換えられるほどの隔世のものとして喩えられているので、彼の見方に反旗を翻したくなる人もいるかもしれない。けれど読み進めていくうちに、デヴィッド・ヘップワースの意図していることは決して否定ではなく、むしろ、「普通じゃない人」(アンコモン・ピープル)である「ロックスター」への「情熱」がゆえの表現であることが理解できるはずだ。

 著者であるデヴィッド・ヘップワースは、『Q』や『Mojo』『SMASH HITS』など名だたる音楽雑誌の創刊に携わり、イギリスのメジャー新聞『The Guardian』で音楽コラムを執筆するなど長年音楽業界にジャーナリストとして関わってきた人物だ。彼の筆致には、イギリス生まれらしい、シニカルにそしてクールに対峙する表現が散見されるが、通底しているのは、ロック・スターとは何かについて「緻密」にかつ「真摯」に迫りたいという探究心といえよう。

 本書には、1955年の最初のロックスターとしてリトル・リチャードが取り上げられている。その後1956年はエルヴィス・プレスリー、1957年にはクオリー・メン、その後はバディ・ホリー、ザ・フー、そしてロック・スターの終焉としてカート・コヴァーン(その後にトリとして、マーク・アンドリーセンが登場するのは興味深い)までの象徴的なアーティストやバンドが41フォーカスされ、時系列に書き連ねてある構成だ。特徴的なのはタイトル。ロック・スターの名前よりも「年月日」と「地名」が大きくなっている点だ。リトル・リチャードの場合だと下記のようになっている。

大:1955年9月14日
中小:【ランバート・ストリート、ニューオリーンズ】
中:最初のロック・スター
小:リトル・リチャード

  書籍のタイトル が「アンコモン・ピープル」なので、リトル・リチャードを大扱いにしてもよいはずだが「年月日」を最も大きくしているのは、単にロック・スターだけに迫った評伝的な内容ではなく、事象からロック・スターを、それにロックという現象を読み解こうとする構成の表れであろう。

 加えて「年月日」の横には「地名」を併記しており、ロック・スターにとっての象徴的な出来事が起こった「場所」をストリートまで、詳細に言及することによって、ロックにおいて「場所」というものがいかに重要かを気づかせてくれる、編集の妙といえる。

 また冒頭にはロック・スターたちの35枚のモノクロ写真が並べられ、どれもその当時の熱気や息吹を感じられるセレクトで、見ているだけでも楽しい。さらにそれぞれの章の最後にはプレイリストが掲載されていて、その年を代表するロックの名曲がラインナップされているのも嬉しい。

 ページ数は594ページという大ボリュームの本書。壮大で深淵なるロックについての歴史を俯瞰できるのが本書の最大の魅力である。デヴィッド・ヘップワースの考察によって、ロック・スターは本書の中で色褪せることなく生き続けていくことで、ロックというスタイルが時代を経ても失われることがないことを切に願いたいなる一冊だ。

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