なまけ者たちの共感集めてベストセラーに! とにかく怠惰な韓国エッセイ『着ない服を捨てたら「すぐやる人」になれた』に注目
「本当はやらなきゃいけないことがあるのに……」と思いながら、ついつい手がスマホに伸びてしまい、気づいたらダラダラと時間を溶かしてしまう。そんな怠惰な自分に嫌気が差してしまったことはないだろうか。
もちろん、誰にでも頑張れない日はある。けれど、それが習慣化していて「このままでは人生を滅ぼしてしまうのでは」という危機感を抱くようになったら、まず何から修正していけばいいのか。そんなときにおすすめなのが『着ない服を捨てたら「すぐやる人」になれた』(飛鳥新社)だ。
共感不可避! 生粋のなまけ者による反省文エッセイ
もし今、この本のタイトルを見て「ああ、この手の本ね……」と遠い目をしてしまったとしても無理はない。なぜなら、“この手の本“はこれまでもいくつもあったし、遠い目をした人はきっとそのたびに手に取っては、自分を変えようと試みたはず。そして、その数だけ「ダメだった」と落胆してきたのだと想像できるから。
でも、安心してほしい。この本は、まさにそんななまけぐせに囚われた、無気力の沼からずっと抜け出せなかった作者が書いた本なのだ。韓国でベストセラーとなった本書の原題は『本当に怠惰な人が書いた怠惰脱出法』というから、親近感が湧く。
前半は、まさに作者がこれまで過ごしてきた人生の反省文ともいえるエピソードが並ぶ。ピアノ教室に通っていたときには、練習もせずに漫画を読んでいたこと。毎日コツコツ続けるタイプの通信学習の教材はやらずに隠すようになったこと。パソコンゲームを深夜まで続けて、授業中に居眠りをしていたこと。そして、スマホを手にしてからは、やるべきことをことごとく先送りにしてきたこと……。
そんな著者の生活ぶりに、韓国の電子出版プラットフォーム『KAKAO Page』には「共感120%」「私を観察して書いた文だと思いました、鳥肌~!」「ああ、私の話ですか……」と他人事には思えないレビューが続いた。そして韓国のオンライン書店『Yes24』では、10点満点中9.1点の星をつけ、エッセイトップ20にランクインするなど、多くの支持を得たのだ。
これほど多くの人が同じように自分のなまけぐせについて悩み、どうにかしたいと模索しているということがわかるだけでもホッとするではないか。そして同時に、そんな生粋のなまけ者だった作者が、どうして本を書き上げて、しかも現在は、大学の編入試験に受かり、希望していた専攻の勉強をしているまでに自分を律することができたのか知りたくなってくる。
そう、この本は「自分を変えよう!」といきなり走り出すようにお尻を叩かれるのではない。「あるある」という共感から、ハードルをとことん下げて「そのくらいならできるかも」と、まずはソファから起き上がるために手を差し伸べてくれるような本なのだ。
自己肯定感を育むのは、思った通りに自分が動けたとき
これまで韓国のエッセイで人気だったものは、頑張ることを強要され続けてきた結果、パンクしてしまいそうな若者が、「頑張りすぎない」に目覚め、自分のペースで生きることの大切さを綴るものが多かったように思う。
そうした本には、実際に多くの努力の末に結果を残してきたK-POPアイドルたちも大いに共感し、話題を集めてきた。だが、そんな勤勉なタイプが休もうと努力する一方で、「そもそも頑張れていないんだけど」と焦りを感じている人もいるということ。本書は、そんなもう一つの若者の影に光を照らしてくれる本なのかもしれない。
近年、幸せに生きるためのキーワードとなっている「自己肯定感」という言葉。この本を読んでいるうちに自己肯定感を育むのは、何かしらの達成感を得たときなのだと感じた。勉強をして目標の試験に合格すること、家を片付けて快適な生活空間を実現すること、運動をして理想的な体型に近づくこと……すべては、自分が「こうなりたい」「こうしよう」と思った通りに動けるかどうか。
逆を言えば、その目標を掲げながら「今日もできなかった」「また頑張れなかった」という自己否定が毎日少しずつ続くことが、どれだけ自分を幸せから遠ざけているかということにも気付かされる。
この本の中で「意志力」と名付けられた、思った通りに自分を動かす力。それは、もともと持って生まれた性質ももちろんあるけれど、ある程度は育てていけるのだと作者は語る。そして自分の中にある幼稚園レベルの意志力を、ゆっくり育てていこうと言うのだ。
幼稚園レベルだと受け入れられたら、できるレベルを調整できる。いきなり大人レベルを期待して自分にがっかりすることもない。「課題をやる」ではなく、まずは「パソコンを開く」から。できない自分を戒めるのをやめて、できるようになった自分を褒める。そんな発想の転換で、自分を育て直すステップを具体的に教えてくれるのだ。