『環と周』『この世は戦う価値がある』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 10月のおすすめ新刊漫画

 今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?

『環と周』よしながふみ先生

 『大奥』『きのう何食べた?』でお馴染み、よしながふみ先生の最新作。主な登場人物は、タイトルにもある通り“環と周”という2人。だけど、この2人は現代、70年代、戦後、明治、江戸時代など、どの時代にも存在する上、時代によって性別はもちろん、夫婦、親友、ご近所さん.......と、関係性も異なる。『環と周』はそんな2人がたどる数奇な運命と因果を描いた一冊だ。

 いわゆる輪廻転生系の話だが、ラブストーリー一辺倒ではなく関係性ごとに異なる「好き」の形を描いている点。そして、ラスト2話で「そうきたか!」と膝を打つような、胸がいっぱいになるような......そんな見事なエンディングに衝撃を受ける。

 ネットでもリアルでも、自分と今こうして関わっているあなたと、君と、全ての人たちとの間には、きっと時代を超えて紡がれている“何か”があるんじゃないかと。ちょっぴりセンチメンタルな気分になる今の季節にぴったりな一冊。読み終わったあとは、ついベランダに出て空を見上げたくなる。

『この世は戦う価値がある』こだまはつみ先生

 激務、パワハラ、セクハラにモラハラ彼氏。現代社会の負をフルで背負ったOL・紀理が、とある“1枚のカード”を切り札に自分の人生をリベンジする物語。リベンジというと、派手な復讐劇や復活劇を想像するかもしれないが、彼女のリベンジ方法は実にユニーク。それは、貸借対照表のように紙を半分に区切り、左には「貸し」として相手に返したい今まで受けてきた傷み、あるいは今までやりたくても我慢してきたことを。右には「借り」として、今まで自分が相手からもらったモノや感謝を伝えたいことを書き連ねていくというもの。

 紀理と同じように、他人のために自分を消耗し続けている......そういった生きづらさを感じた時は、「貸し」と「借り」で仕分けることで、見えてくるものがあるのかなと。つい実践したくなるようなリベンジ方法は必見。そして、まるで人生を総決算するかのように「貸し」と「借り」を着実に実行していく紀理の姿は段々と気迫が増していくというか、強い生命力を感じる。なんだか胸ぐらを掴まれるかのように、次のページへと引き込まれていく作品だ。

『人生最大の嘘ついた』梅サト先生

 売れない芸術家が海外を放浪していたところ、著名なクリエイターから“勘違い”で絶賛されたことをきっかけに、天才芸術家としての人生を歩むことに。そんな嘘から始まる人生大逆転コメディ『人生最大の嘘ついた』だが、読み進めていくうちに、これはコメディだけじゃない! と、物語の根底にある重厚なテーマに驚かされる。

 例えば、主人公の薫は、他人からの勘違いである日突然“天才芸術家”ともてはやされるが、本当に自分がやりたい芸術表現は別にある。でも、本当にやりたい表現では評価どころか見向きもされない........。ならば、才能とは、自分ではなく他人によって形作られるものなのか? 一体何なのか? と。つまり、『人生最大の嘘ついた』は、ユニークな設定と視点で才能の正体に迫る骨太な群像劇でもあるのだ。

 人生最大の“嘘”で掴んだ、芸術家への道。だけど、それは薫の人生に何をもたらすのか? 早くも2巻が待ち遠しくてたまらない作品だ。

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