本を読まない人に向けた本作りでベストセラー多数! サンクチュアリ出版・橋本圭右編集長インタビュー

サンクチュアリ出版編集長インタビュー

心に届く本を創る秘訣

――橋本さんのお話を伺っていると、サンクチュアリ出版は様々な試行錯誤を重ね、現在の方向性を見出したことがわかります。

橋本:売り方も作り方も、なるべくオリジナリティを持たせるように工夫してきました。例えば、池田貴将さんの『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』は、発売前に、金色のカバーを巻いた豪華なサンプル本を作って、全国の議員さんや中小企業の社長さんたちに配りました。そういう方々は内容を気に入ってくれたら、きっと周囲に広めてくださるだろう、と考えたからです。また本の作りも、細部に渡って「覚悟を決める本」という緊迫感を持たせるようにしました。一方で、あんまり「怖さ」を感じさせてしまわないよう、優しい文体にしたり、内容とはまったく関係のない異国の子供の写真を表紙にのせたりもしました。まあ、すべては結果論なのですが……。実はこの本もまったく売れるとは思っていませんでした(笑)。発売前に編著者の池田さんに「今回は全然売れないと思います」と謝ったことをよく覚えています。

装丁で子どもの写真を使うのもサンクチュアリ出版の定番

――サンクチュアリ出版がやり始めて、出版界に広まったことは多そうですね。

橋本:出版社同士、見せ方や売り方など、良いところをパクり合っているようなところはあるので、「このやり方はサンクチュアリ出版が元祖だ!」と自信を持って言えることはありません。ただ、外国人の子供の写真を積極的に使ったり、冒頭何ページにも渡って短いセンテンスと写真(イラスト)を展開させたり、本文中に突然エモいキャッチコピーを突っ込んだりするのとかは、わりと早い段階で、やっていたんじゃないかと思います。

 なんにしてもたった一冊の本について、みんなでああだこうだ言い合いしながら作ってきた本ばかりなので、結果的にユニークになった本は多いかと思います。

――本を読まない人に届く本を作るというコンセプトは、現在まで一貫していますね。

とにかくわかりやすいと評判の『ワイン一年生』と『コーヒー一年生』

橋本:僕が担当した本で、「本を読まない人のための本」という特徴が特によく出ていると思うのは、『図解ワイン一年生』『図解コーヒー一年生』のシリーズです。『図解ワイン一年生』は「ワイン売り場で何十種類とあるワインを前にして難しい顔をしている人たちは、本当にワインを選び方がわかっているのだろうか?」という素朴な疑問から生まれた本です。ワインの関連書には、初心者が選ぶ目を養うための本はほとんど見当たらず、専門用語が多用され、僕にはわかりにくいものばかりだとずっと思っていたので、いつか「誰にでもわかる本」を作りたいと思っていました。そこへたまたま、ワインの「品種」が萌え系のアイドルに見えるという、一風変わったソムリエの方から企画の持ち込みがあり、それに乗っからせてもらった感じです。

――『図解ワイン一年生』は私も読みましたが、本当に面白いですね。

橋本:ありがとうございます。あと、もう一つ「本を読まない人のために」という意味でいうと、『ぜったいにおしちゃダメ?』という絵本があります。100万部を突破した絵本ですが、これも「絵本を読まない子供のための絵本、ってあったら面白いかも」という軽い気持ちで作りはじめた本です。弊社は絵本を作ったことなかったので、むしろ「どうなれば絵本を買いたくなるか?」というアイディアが出やすかったのです。

 印象的なボタンをぽつんと表紙の中心に配置したり、「とにかく笑う! 何度も読んでとせがまれる!」「92%の子どもが盛り上がった!」などのキャッチコピーをのせたりするなどして、この本を読むとどうなるか? という「効果」を強調しました。

 絵本の多くは財布のひもが固いママが買うので、子どもが何度も読んで、笑ってくれたらコスパがいいかも、と思っていただきたかった。またカリスマ保育士のてぃ先生の協力で読み聞かせイベントを実施し、その動画を配信するなどもしました。本当に絵本のことなんて右も左もわからなかったので、実用書やビジネス書のノウハウを全部詰め込んだ感じですね。

つい押してみたくなるボタンの絵が印象的な『ぜったいにおしちゃダメ?』

編集の仕事への思いと次なる一手

――橋本さんが本を編集するうえで、重視していることはありますか。

橋本:まったくの初心者の状態から本を作ることでしょうか。僕は、知らなかったことを知っていく過程でしか、面白い本は作れないと思っています。著者に関しても、その方のことを深く知らない状態の方がベストですね。僕の場合は、著名な方ほど、相手に対して余計な先入観があるのでかえって本を作りにくいです。あと、自分が大好きなジャンルもやりにくい(笑)。好きなジャンルほどつい力が入りすぎるから。一般読者が共感できる本を作れる自信がありません。

 思い返すと、「ビジネス書」というジャンルも苦手だったから、それまでになかったようなビジネス書を作れたような気がします。僕は理解が悪いので、なかなか著者の方が「こうすればうまくいく」おっしゃっていることを、素直に受け入れることができません。取材中も「そうは言っても、普通の人にはできないかも」「なにを言っているのか、正直よくわかりません」と抵抗ばかりしてきました。最後には著者の方から「もう勝手にしてくれ」と半ばさじを投げられ、関係性が悪い状態で入稿したことも多々あります。でもそういう本に限って、売れたりします。いや、結果的に売れてくれたからよかったものの、もし売れていなかったら、「サンクチュアリ出版は編集がアホだから本を出すのはやめたほうがいい」って噂がどんどん広がっていたかもしれません(笑)。

――そんな橋本さんが、次に作ってみたい本のジャンルはなんですか。

橋本:僕は基本的に雑食なので、どんなジャンルでもいいです。ただ英語学習とか、理工書とか、資格・検定書とか、歴史書とかは「全然興味がない」のでいつか挑戦してみたいですね(笑)。僕がまだ知らない、わかっていない面白さを、教えてくれる著者と組んで、本にしたい。

 あと児童向けの本もやってみたいと思っています。学校で朝の読書が重視されている今こそ、本を読まない子どもたちでも夢中になれる本、それこそゲームよりも夢中になれるような一冊を作れたら最高ですね。


■関連情報
サンクチュアリ出版公式ホームページ:https://www.sanctuarybooks.jp/

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