出版社と漫画家の関係はどう変わる? 『ドラゴンボール』めぐる編集者の独立報道で考える
8月31日、「文春オンライン」が『ドラゴンボール』の作者・鳥山明と親しい関係にある編集者の伊能昭夫氏が集英社から独立すると報道した。伊能氏は新会社「カプセルコーポレーション・トーキョー」を設立すると報じられ、集英社で「ドラゴンボール室」の室長を務めていた経歴から、大きな騒動になっている。
しかも、伊能氏は自身と近しい社員を2人引き連れての独立とも同記事で報じられており、今後、『ドラゴンボール』の版権がどのように扱われるのか、集英社以外からも様々な企画が登場することになるのかなど、ファンには目が離せない動きになっている。
漫画界ではこのように、編集者が独立する事例がこれまでも何度も繰り広げられてきているため、決して珍しいことではない。しかし、やはりそこは鳥山明というビッグネームということもあって、話題のレベルが桁違いである。近々公式な発表があるものと思われる。
編集者の独立が話題になった事例といえば、過去には「週刊少年ジャンプ」の編集長だった堀江信彦がコアミックスを設立した際や「月刊少年ガンガン」の編集長だった保坂嘉弘の独立も記憶に新しい。
漫画家と編集者の関係が決裂してトラブルになる事例もあるが、一方で編集者に絶対的な信頼を寄せる漫画家も多い。特に「ジャンプ」の場合、編集者と漫画家が一緒になって作品を作り上げるため、距離が一層近くなる傾向にある。様々な内部の事情はあると思うが、今回の鳥山明の事例からも、漫画家と編集者がいかに密接に繋がりながら仕事をしているのかがよくわかる。
ところで、基本的に漫画家は、専属契約などを結んでいない限り自由の身である。そのため、体力と気力さえあれば複数の雑誌、出版社を掛け持ちすることも可能だ。ただし、唯一無二と言っていいのが「ジャンプ」の場合で、ご存知の通り漫画家と編集部の間で専属契約が結ばれているため、原則的に「ジャンプ」で連載を行っている間は、他誌で連載をもつことができない。
この制度ができた要因は多数あるが、そのひとつに「ジャンプ」が新人発掘を重視していることが挙げられる。他誌では有名な漫画家を引き抜き、連載を持たせる例も多い。しかし、「ジャンプ」は漫画家を一から発掘して育て上げるシステムにこだわる。鳥山明も「ジャンプ」の編集者によって発掘された人材だし、『ONE PIECE』の尾田栄一郎も然りである。こうした背景をもつ専属契約は、「ジャンプ」最強の強さとなっていた。
しかし、漫画家の活動のあり方が多様化している昨今、こうした契約の制度は、時代の流れもあって徐々に緩和されていく可能性が高い。その場合は、漫画家と編集者の関係にも変化が訪れる可能性がある。特に、無名な新人を一から育成するシステムが、どのようになっていくのか。このようなシステムにおいても今後変化があるのか注視していきたい。