ブックライブ、話題の漫画を生み出す背景に”ビッグデータ”の活用あり マーケティング部担当者が語るヒットを生む秘訣

ブックライブ、ヒットを生む秘訣

  総合電子書籍ストア「ブックライブ」では、これまでに蓄積された広告のクリック率や、サイト内で人気のある作品傾向などのビッグデータを活用し、読者のニーズや市場のトレンドを反映した漫画の制作を独自に行っている。

  2018 年から本格始動したこのプロジェクトは一定の成功をおさめ、社内編集部や漫画家と作品を共同制作する体制を確立している。こうした手法をもとにこれまでに約50作品が制作され、テレビドラマ化した『花嫁未満エスケープ』を筆頭に、順調にヒット作が生まれているという。

  ビッグデータを活かして行う漫画制作とは、いかなるものなのか。ブックライブのマーケティング部の田中さんと坪井さんにお話を伺った。

プロジェクトが生まれた背景

――ブックライブさんのビッグデータを使った漫画制作は、2018年から立ち上がったプロジェクトだそうですね。

田中:マーケティングの発想で漫画を制作すること自体は他の出版社さんも行っているでしょうし、珍しくないと思います。ただ、電子書籍ストアのマーケティング部と編集部が一緒になって広告出稿を前提とした漫画を作るケースは、当時はまだ少なかったのではないかと思います。

――なぜ、社内で漫画を制作しようと考えたのでしょうか。

田中:2018年の電子コミック界では、SNSをテーマにした恋愛漫画が流行しました。そういった作品の広告がSNSに表示されるため親和性が高く、漫画としては新しくも、SNSを閲覧している読者にとっては馴染みのあるテーマだったわけです。しかし、そういった作品はまだ少なかったため、それなら社内で作ろうと思ったのがきっかけです。

――なるほど。最初に制作した漫画はなんでしょうか。

マーケティング部発の作品で初めてヒットしたのが『SNSに溺れる女たち』。2018年当時、SNSをテーマにした恋愛漫画が流行したことが着想となり生まれた作品。現在では多くあるテーマだが、連載開始当時はまだ少なく新しさと自社内の編集部制作による一気通貫のスピード感を持って公開することができことも他の追随を許さない人気作となった。©ほの香/ライブコミックス

田中:最初に制作したのは『SNSに溺れる女たち』です。通常は制作から配信まで1年くらいかかるものを、3~6か月でやり遂げました。当社にはマンガ編集部が複数ありまして、この作品については編集を外注することなく、一連の工程を社内で完結させることができたため、スピーディーに実現することができました。

漫画家にはどのように依頼する?

――実際に完成した漫画を配信してみて、反響はいかがだったのでしょうか。

田中:『SNSに溺れる女たち』はおかげさまで大ヒットしまして、当時、弊社のオリジナルコミックの中で一番の広告ヒットとなりました。成功を受けてこの漫画をシリーズ化し、30話以上続く長期連載になりました。

――凄いですね。漫画家さんの選定は、どのように行ったのでしょうか。

田中:現在では作品のイメージに合わせてお声がけをしていますが、最初は編集部でもともと交流があった漫画家さんにお願いしていました。その際は、広告出稿を前提とした制作であり、データをもとに作るので、修正をお願いする部分がいつもより多いとしっかり伝えています。注文が多くなっても柔軟に対応してもらえるようにと事前に確認しているので、トラブルは起きませんでしたし、読者のニーズに近く共感しやすい漫画を作ることができました。

――こだわりの強い漫画家さんですと、意見の反映が難しいとおっしゃる方もいますよね。

田中:そうですね。そこは目的によって漫画家さんのスタンスが違うと思います。広告を前提とした特殊なお取り組みなので、そこのニーズが合致する方もいらっしゃれば、ある程度自由に描きたいけれど広告のトレンドは抑えておきたい、という漫画家さんもいらっしゃいます。そのため、マーケティング部も作品ごとに関わり方を少しずつ変えて、なるべく漫画家さんの個性とトレンド反映が最大化できるようにしています。

ヒット作が続々登場、ドラマ化された作品も

――その後のヒット作には、どのようなものがありますか。

『花嫁未満エスケープ』はBookLive の編集部「ライブコミックス」発の作品。若い女性読者のリアルな共感を得るために、マーケティング部スタッフが構成面やシナリオにアドバイスをした。©小川まるに/ライブコミックス

田中:『花嫁未満エスケープ』は、2022年に実写ドラマ化されました。もともと編集部で企画した内容に、マーケティング部が細かなアドバイスを行って制作しました。

坪井:具体的には、物語にいかにリアリティを持たせるかを追求しています。女性がパートナーに対してどんな不満を持っているのかを深掘りし、漫画の中に散りばめていきました。そのおかげで、多くの同年代の読者の共感を得ることができたと思います。

――深掘りは坪井さんが行ったのでしょうか。

坪井:既に作家さんと編集さんで企画の大枠ができていて、それがとてもよかったのでさらにWEB広告向きにブラッシュアップしようというスタートでした。この作品の担当編集者と私が同世代だったので、パートナーのどんなところにイラッとするのか(笑)といったことを、実体験も含めてたくさん話し合いました。さらに、WEB広告でならではの印象的な場面やセリフを切り取って見せることで、続きを読みたくなるように演出できたと思います

――具体的な演出はどのようなものでしょうか。

坪井:あくまで例ですけど、男女間で喧嘩をするシーンにおいては、ただの会話の繰り返しだけではあまり効果がありません。なので、リアリティある会話に加えて、皿を割るとか物を壊すシーンといった事件性がある演出を追加した方が、バナー広告では目に留まりやすいんですよ。

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