「ブックライブfun」チート系主人公『ヒーローはフードファイター』にみる 中国発縦読みマンガのパワフルさ

『ヒーローはフードファイター』レビュー

 マンガアプリ「ブックライブfun」が面白い。国内の人気作が「チャージ無料」で読めるのもマンガ好きにはありがたいが、これまであまり目にすることができなかった「中国マンガ」の独占配信が行われており、宮廷世界への転生モノから、勝ち気で自立した女性主人公が活躍する「大女主(ダーヌージュ)」と呼ばれるジャンルまで、新鮮な刺激のある作品に溢れている。

 そんななかで注目したいのが、中国発の新たな“チート系”主人公マンガ『ヒーローはフードファイター』だ。

 主人公は、肥満によりいじめを受けてきた男子学生・西宮空。苦悩のなか、食べ物をのどに詰まらせて死ぬことに“成功”し、悲しい走馬灯のなか永遠の眠りにつこうとするが、その瞬間、「脂肪変換システム、起動成功」「スターターパックを獲得しました」という声が頭に響く。目が覚めると、空はスマートなイケメンに生まれ変わっていて……。

©Man Dongzuo/Kuaikan Comics
©Man Dongzuo/Kuaikan Comics

   縦読み&フルカラーの「ウェブトゥーン」で、かつ、いじめっ子たちを見返す「リベンジ」ものという、マンガ業界のトレンドを押さえたプロローグ。さらに“大食い”という動画コンテンツとしても人気のジャンルが掛け合わされており、日本の読者もワクワクしながら、物語の世界に入っていけるだろう。脂肪を異能力に変換できる、謎のチート能力を手に入れた空は、悪漢から幼馴染を助け、スポーツでも活躍し、フードファイター/インフルエンサーとしても成功していく。

©Man Dongzuo/Kuaikan Comics

 調子に乗りそうで、そうならないのが主人公・空の魅力だ。チート能力はだいたい問題解決のために使われ、少なくとも「自分がいい思いをしよう」という考えが念頭にない。それでも、意地のわるい人間たちを懲らしめ、少しずつ周囲に認められていく姿にはカタルシスがある。

©Man Dongzuo/Kuaikan Comics

 さて。もしかしたら、ここまではただ楽しいエンタメ作品、という展開かもしれない。そのなかで気になってくるのが、「システム」の謎だ。なぜか「虫」にかかわる能力が多く、「チート」と呼ぶには不便だったり、主人公にとって意味がわからなかったり、悩みの種になるものもある。空に能力を授けた超越的な存在は、いったい何を求めているのか……という謎が少しずつ解き明かされているのが、35話を迎えた現在の状況で、先の読めない展開が続いている。

 ウェブトゥーンらしい、勢いを感じる作品だ。というのも、縦読みのウェブトゥーンはコマ割り漫画と違い、単行本化が前提にはなっておらず、基本的に、無料公開の期間が過ぎれば、単話レンタルor買い切りというビジネスモデルになっている。そのため、「次の話を読ませる」ことが作家にとっての大きなテーマとなり、惜しみなく気になるネタを投入し、高い熱量で読者を飽きさせないエンターテインメント性が、成功の鍵になると思われる。

 その点、『ヒーローはフードファイター』は多くのフックになる要素を詰め合わせており、続きを読みたくなる魅力がある。その上で、早くから「虫」に関する伏線を張るなど、場当たり的ではなく、グランドデザインに沿いながら、物語を進行していることがわかるため、この先に期待が高まる。

 食べることで能力を得る、チート系フードファイターの活躍が見たい人も、胸のすくリベンジにカタルシスを感じたい人も、そして、いままさに隆盛期にある、中国マンガのパワフルさを感じたい人も、本作をチェックしてみてはいかがだろうか。

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