「短歌×デザイン」が生み出す“あたらしい本”のかたちとは? 歌人・伊藤紺×デザイナー・脇田あすかトークイベントレポート

伊藤紺×脇田あすかトークイベント

二人の好きな本と、ものとしての本の尊さ

伊藤:私の好きな本は、読みたいって思ったときに一気に全部読める本。ただページが少ないというわけではなくて一章だけで一冊にしたような勢いのものが好き。音楽でいうと、1枚の中で物語があるアルバムよりも、全部同じ曲なんじゃないかって思うようなアルバムがよくて、自分もそういうことがやりたいなって。あすちゃんはどんな本が好き? 

脇田:歌集や詩集は、パッて読んでパッてすぐに離れられるのがいいなと思う。小説を読みはじめると止まれなくて終わるまで他のことに手がつけられないというか……もちろんそれも好きなんだけど、手軽さっていう意味で前者はよく手にとりがち。

伊藤:たしかに、どこからでも読みはじめられるもんね。本のデザインの話だと、どんなところがおもしろいと思う?

脇田:小説やエッセイ、歌集、詩集とかは、作家さんが言葉から文字にしないと存在しなくて、文字を組まないとできあがらないものだから、その源流部分を任せてもらえるのはすごいことだなと感じてる。書いている人への敬意やお願いしてくれたうれしさもあるから、絶対に裏切りたくない。デザインを見せたときに「そうそう、こういう読ませ方がしたかった」って思ってほしいし、そこがいちばんのやりがいというか。文字の組み方は何よりも気合いが入るかな。

伊藤:へえ、すごくおもしろい。短歌って実体がないものをつくっている感覚があって、それがスマートフォンのメモとか手書きのノートのうえで仮の形になっている。本来は頭の中で完結するはずのものが、本として形になることってやっぱりすごいよね。

 短歌って本で買わなくてもいいわけじゃないですか。買わなくても一首覚えちゃえばよくて。でも、そうは思わない。この本がほしい、かたちでほしいって思う。その気持ちってなんなんでしょうね、と今回の歌集二冊の新装版の話をいただいたとき、短歌研究社の國兼さんのメールに書いてあって、すごく感動しました。本当にその通りで、なんで私たちは歌集がほしいんだろうと。

 それは今まさにあすちゃんが話してくれたことにつながっていて、デザイナーさんが本にしてくれてはじめて、頭の中にあった短歌たちがこの世に生まれてくる。本をつくりはじめてからのほうが、本というもののよさがよりわかるようになった気がします。

友達だけど作品も一緒につくる、特別な関係

イベント参加者:脇田さんがいちばんお気に入りの伊藤さんの短歌と、伊藤さんが脇田さんに自分の短歌を贈るならどれを選ぶか教えてください。

脇田:好きな短歌はいっぱいあるんですけど、う~ん、好きということとは少し違うんだけど、紺ちゃんの短歌でいちばん記憶に残っているのは、“口ぐせをうつしあったらばらの花いつまでもいつまでも残るよ”。はじめて読んだときにぐっと入ってきて、そこからどんどんはまっていきました。今思うとあまり紺ちゃんの歌っぽくないんだけど、入口はこの歌でしたね。

伊藤:ありがとう、うれしい。私は短歌じゃないけど、『満ちる腕』にあすちゃんのことを思いながら書いた部分があります。「あのね」という詩で、“丁寧な仕事が心に響くね まなざしは透明なまま残るから なにも言わなくてだいじょうぶ”っていうところ。

 あすちゃんのすごく好きなところで、つくるのは明るいものでも、悲しみのようなマイナスの感情を絶対になかったことにしないところがあって。いつも静かに見つめていて、そういう暗さも消さないまま形にする意志の強さを感じるし、そのまなざしは作品に残るものなんだなあと。

脇田:そうだったんだあ……すごくうれしい。私は、紺ちゃんとは特別な関係だと思っていて。仲もよくて遊びに行ったりもするけど、作品も一緒につくるっていう。はじめから友達として出会っていたら、また違っていただろうなあと思います。

 たとえば私が出したデザインをそんなに気に入っていなくても言いづらい、というようなことがあったかもしれない。でも、そこはちゃんと切り離して接してもらえている気がするし、自分もそうしているつもりだから、こういう関係性は珍しいというか、ありがたいというか……。

伊藤:それは本当にそうで、なにを言いづらいという感覚すらほとんどないよね。あすちゃんとの間では、そういう信頼関係やリスペクトがいい形で築けていると思っています。

脇田:これからも紺ちゃんと本をつくっていきたいと思っているので、またどこかで見てもらえたらうれしいです。

【プロフィール】

伊藤紺(いとうこん) 歌人。歌集『肌に流れる透明な気持ち』『満ちる腕』(ともに短歌研究社)、ミニ歌集『hologram』(CPCenter)などがある。

脇田あすか(わきだあすか) グラフィックデザイナー、アートディレクター。東京藝術大学デザイン科大学院を修了後、コズフィッシュを経て独立。

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