『Lv1魔王とワンルーム勇者』『はたらく魔王さま!!』……魔王と勇者の“その後”を描いた作品が続々アニメ化している理由

魔王と勇者の“その後”を描いた作品たち

 魔王と勇者は対立している存在で、どちらかが滅びるまで戦うのが宿命というのが決まりごとだった。今は違う。勇者と魔王はぶつかりあったその後の世界で、一心同体とも表裏一体とも言えそうな関係になっていく。漫画やライトノベルを原作に7月から始まったTVアニメにもそんな、タダならぬ雰囲気を見せてくれる魔王と勇者が続々登場。これはどういうことなのか? 善悪の二元論では割り切れない複雑な社会を映したものなのか?

 魔王が勇者に討たれて終わるファンタジーRPGにもしも続きがあったならーーそんな願望が、今の魔王と勇者のその後を描いた作品の隆盛をよんでいるのかもしれない。戦いに敗れて復讐を狙う魔王。世界を救って英雄になった勇者。それぞれが時を隔てて再会した時、どれだけの激しいバトルをまた見せてくれるのかと心待ちにしていたら、双方にとんでもないことが起こっていた。

 7月3日からTVアニメが始まった『Lv1魔王とワンルーム勇者』はそんな、意外な展開から始まる魔王と勇者の日々を描いた作品だ。原作はtoufuが漫画アプリ「COMIC FUZ」に連載している漫画。勇者マックスに倒されてから10年が経ち、幼い姿になって復活した魔王が挨拶とばかりにマックスのところに赴くと、英雄として讃えられているどころか人目をしのんで生きる自堕落なおっさんになっていた。

 これは好機とマックスを倒しにかかるかというと、魔王はマックスの悲惨な境遇に同情して面倒を見始める。どうしてそんな振る舞いを? 最強を自認する自分を倒した相手が落ちぶれていると、自分まで落ちぶれてしまっているのかと思われてしまうのが悔しいから? いろいろな理由が考えられそう。

 言えるのは、数々の勧善懲悪のドラマを経て来た今、勇者がいてこそ魔王も引き立ち、魔王がいてこそ勇者も存在する意義があるといった関係性が分かってしまったということ。そこを起点にしない限り新しいエンターテインメントにはならないといった思いが、その後の展開をクリエイターたちに描かせてしまうのかもしれない。

 勇者と激突して敗北した魔王のリベンジという設定は、13日からTVアニメがスタートの『はたらく魔王さま!! 2nd Season』でも使われている。和ヶ原聡司のライトノベルが原作で、2013年に第1期としてTVアニメ『はたらく魔王さま!』を放送。それから9年ぶりとなる2022年に第2期『はたらく魔王様!! 1st Session』が放送となり、1年経って今回の『2nd Session』となった。

 こちらのシリーズでは、『Lv1魔王とワンルーム勇者』とは逆に、魔王の方が落ちぶれた存在となっている。勇者パーティーに追い詰められて異世界から現代の日本へと転移した魔王サタンだったが、魔力のほとんどを失い人間の若者の姿となってしまった。仕方なくボロアパートに住んで、真奥貞夫という名でファストフード店で働きながら力を取り戻そうとしている。

 絶対の強者である魔王が、都会暮らしの平凡な若者の生活に必死で慣れようとするギャップが面白く、同時に働いて稼ぐ苦労というものも教えられて、同じように頑張っている人たちの共感を誘う。サタンを追い詰めた勇者エミリアも現代社会に転移してきて、サタン同様に苦労して現代社会にとけこもうとするが、勇者としての使命に縛られているのか、真奥を見るといてもたってもいられなくなり、ちょっかいを出してしまう。

 ラブコメ的な要素もあれば、社会と経済を学べるところもあってと様々な角度から楽しめる作品。魔王の側が勤勉さを覚え平等さを大切にしようと考えるようになっていくのに、勇者の側が魔王は悪だという立場に頑なという対比から、絶対の正義が持つ危うさのようなものが浮かんでくる。ちなみに勇者エミリア役の日笠陽子は、『Lv魔王とワンルーム勇者』で魔王の秘書官ゼニアも演じている。頑な勇者エミリアとエロい衣装で魔王に振り回されるゼニアの演技の聞き比べも楽しめる今クールだ。

 7月8日にTVシリーズがスタートした『魔王学院の不適合者Ⅱ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』も、主人公は復活した魔王アノス・ヴォルディゴート。「小説家になろう」で人気となって書籍化された秋『魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』が原作で、2020年の第1期に続く第2期となる。

 暴虐の魔王と恐れられたアノスは、2000年後に赤ん坊の姿で生まれてすぐに大きくなって魔王学院に通い始める。ところが、かつて暴虐の魔王と恐れられたのはアノスではなくアヴォス・ディルヘヴィアだと歴史が改ざんされていて、自分の名前を始祖として出したアノスは不適合者の烙印を押されてしまう。皇族を絶対とした差別意識も広まっていて、混血の魔族が虐げられる状況にあった中、アノスは強大な魔力を武器に混血組をまとめあげ、自分が願ったものと違う体制に挑んでいく。

 最強のリーダーが落ちこぼれ組をまとめあげ、エリート達を倒していく展開は、佐島勤『魔法科高校の劣等生』とも重なって下克上的な興奮を誘う。それだけではなく、ライバルだった勇者の血を受け継ぐ者も味方に引き入れ、世界を狙う新たな敵に立ち向かっていく展開は、善と悪の二項対立では片付けられない勢力が、世界には存在することを感じさせる。

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