『重版出来!』完結 希望の火を灯し続ける「お仕事漫画」としての金字塔

『重版出来!』完結に寄せて

 『月刊!スピリッツ8月号』に掲載された最終話には、虹を見つめる彼の姿があった。その場面の裏には、父親がかつて言った「伯は虹をつかむ男になるぞ」という言葉があるのだろう。物語の全てを締めくくるかのような快晴の空の下、かつて憎んだ男の言葉が、確かに彼の内部で息づいている。

   本作が描いてきたのは、人間の心情の複雑さだ。中田が彼の作品『ピーヴ遷移』の怪物·ピーヴを描く中で、憎み続けてきた父親の心に向き合い続けたように。本作のいわゆる「悪役」的な人物には、ちゃんと「そうならずにはいられなかった背景」と、「続き」が用意されていた。夢追い人たちのその後も、誰一人取りこぼさない。分かりやすい成功にこだわるのではなく、その先の人生もちゃんと見せてくれる。

  特に、一度潰れかけた漫画家·東江絹が、形を変えてもう一度挑戦し、彼女らしい働き方·生き方を見出していく姿を描きつつ、そこに再び安井·黒沢の編集者同士の攻防をぶつけるのもまた素晴らしかった。

 人は仕事と共に、生きていく。「お仕事漫画」は、仕事を通して、人間を描く。『重版出来!』というお仕事漫画は、これからもずっと、本を愛する人々、並びに、真っ直ぐひたむきに生きる全ての人々の心に、希望の火を灯し続けるに違いない。

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