『重版出来!』はなぜ最高のお仕事漫画なのか 漫画制作の裏側を描いた作品が注目を集めるいま、あらためて分析

『重版出来!』が最高の仕事漫画である理由

 「月刊!スピリッツ」にて2012年から連載されている松田奈緒子『重版出来!』。2017年には第62回「小学館漫画賞」を受賞。2016年にはテレビドラマ化もされ、話題となった。

 ドラマで満足してしまった人もいるかもしれないが、現在も連載は続いている。藤本タツキ『ルックバック 』や松本大洋『東京ヒゴロ』など、漫画家/漫画編集者という制作側の人々を描いた作品が注目を集めるなかで、先んじてヒットしていた『重版出来!』がどんな作品なのか、あらためてその魅力をまとめておきたい。

 主人公は新人女性漫画編集者・黒沢心。週刊コミック誌「バイブス」の編集部を舞台に、持ち前の明るさとポジティブさで編集者として成長していく姿を描く。

漫画家と一緒に成長していく心の姿

 大学までは柔道に明け暮れていた心。オリンピック日本代表の可能性もあったが、怪我が原因で柔道から退くことになる。そんな心が出版社の就職試験を受けた理由は子どものころに柔道をテーマとした漫画を読み、それがきっかけとなり柔道を始めたからだった。

 自分がかつて熱いものを受け取ったように、読者に伝えたいものがある。そんな想いを胸に編集者としての道をスタートさせる。

 週刊コミック誌編集部の現場がきついという噂はよく耳にすることだが、「バイブス」も噂に違わずきつそうだ。そんな中でも、心はめげない。柔道で鍛えた体力があるから周囲についていけるしのだ。納得がいかないことがあればはっきりと口にする性格は、先輩や上司たちからすると面倒なところもあるだろう。しかし、真っすぐにぶつかってきて、素直にアドバイスを受け取る心はかわいいし、育て甲斐のある後輩ではないだろうか。そんな周囲の人々のサポートを受けながら、心は成長していく。

漫画家たちの命がけの作品作り

 心が担当する漫画家たちも個性豊かだ。デビューして40年、第一線で活躍し続ける大御所の三蔵山龍を始め、人気漫画家だが仕事に私生活の影響が出やすい高畑一寸、繊細で落ち込みやすいギャグ漫画家の成田メロンヌ、画力は粗削りだが天性の才能を持っている中田伯。

 これまでにも多くの作品で語られていることではあるが、漫画家としてデビューすることは並大抵のことではないし、そこから連載を開始し、連載を継続させることができるのはほんの一握りの漫画家だけだ。どんな世界も上には上がいて、見上げたらキリがない。壁にぶつかることもあるし、立ち止まり、蹲ってしまうこともある。しかし、作中に登場する漫画家たちは現状に甘んじず、常に上を見続けている。天才だからって苦しまないわけではない。それぞれが苦しみながらも、漫画にしがみついている。その姿は人間くさく、だからこそ共感を呼ぶのではないだろうか。

漫画はたくさんの人で作られている

 コミック誌も、単行本も、漫画家と編集者だけで作られているわけではない。

 『重版出来!』にはさまざまな職種の人たちが登場する。出版社の営業、広報、校正、庶務、印刷会社、デザイン会社、取次、そして書店。漫画の実写化やアニメ化の話が持ち上がると、さらに描かれる職種は増えていく。本作では、ひとつひとつの仕事が丁寧に描かれており、苦悩と仕事を達成したときの喜びが伝わってくる。

 もちろん、彼らも漫画家と同じで壁にぶつかったり、仕事にやる気をなくすこともある。それでも、乗り越え、前を向く姿は読んでいる人たちに勇気を与えてくれる。同時に、全てに仕事には大勢の人が関わっているのだということもわかる。ひとりで完結できる仕事など、ない。そんな気づきが、この作品の人気の理由のひとつなっているのかもしれない。

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