短歌の未来を拓く、新時代の歌人・伊藤紺「メジャーな文化になればもっと面白くなるかもしれない」

短歌の未来を拓く、新時代の歌人

短歌の入り口を広げるようなことができたら

――今年2月、商業施設「NEWoMan新宿」の館内に、伊藤さんの短歌が14首展示されました。館内では誰もが気軽に短歌を見られる展示になっていましたが、こだわられた点はありますか?

伊藤:本から飛び出した短歌の見え方には、もともと興味があって。例えば歌集の場合は、「短歌を読むぞ」という姿勢で本を開くわけじゃないですか。ギャラリーでの展示も、「短歌を見に行こう」と思って足を運んでくれるわけで。

 でも今回、NEWoManでやらせていただいた展示は、「エスカレーターに乗っていたら短歌が出てきた」みたいな、NEWoManに来られたお客さんが唐突に短歌と出合うものです。目の前にふと31字の言葉が現れたとき、どんな歌がいいのか、というのは短歌をつくるときにずっと意識していました。読みから理解までのスピードとか、明るさ、核心との距離とか。せっかく広告コピーじゃないんだから、きらきら明るくないほうが新鮮なのでは、とか。過去作の選定も個人的にはそのあたりを意識しました。

――短歌が好きな方だけでなく、家族連れがいたり、カップルがいたり、いろんなお客さんが見られるわけですもんね。

伊藤:そうですね。いろんな人との偶然の出会いがある。個人的にはこれからも本の中から外へ出ていくようなことには、たくさんチャレンジしたいと思っているのですが、課題もあるなと思っていて……。

――どんなことでしょうか?

伊藤:短歌って微妙な長さなんですよね。例えば、広告コピーは、パッと見でメッセージを伝えることに特化しているので、言いたいことがだいたい一瞬でわかる。そういう長さにしてある。

 あるいは、俳句や短歌であっても、筆っぽい字で書いてあって、575や57577で改行してあると、日本で教育を受けてきたらやはりピンときて、575や57577のリズムで読むと思うんです。ただそう読んでほしいわけじゃないんですよね。破調の歌もあるし、もっと自然にまっさらで読んでほしいんだけど、まっさらで読むには31字はちょっと長いんですよ。逆に最果タヒさんの詩みたいに、ああいうデザインで街にぽんと置いてあったら、やっぱり「詩」だってわかるし、その心構えで読むし、わからなくてもわからないなりに面白い。

 短歌って今ちょうど微妙な気がしていて。読みはじめると面白いんだけど、短歌を読まない人からするとどう読んだらいいかわからない。実際によくそう言われるんですけど、本の中でさえそうなので、街で突然だとなおさら……。

――たしかに、短歌は言葉の並びが独特ですよね。日頃から触れていないと、印象的な体言止めも、比喩的表現も、読み取りづらいのかもしれません。

伊藤:だから、もう少しメジャーな文化になるとできることが広がってくると、個人的には思っています。もちろんメジャーになることによって、大衆に受けるものとそうでないものとの差が生まれるはずで、どこかに不都合が生じたり、今までつくり上げてきた土壌が商業に汚されるような感覚を覚える人も当然いると思うので、「絶対にメジャーになるべきだ!」とは思わないのですが。

 でも、音楽とかどんな分野においても、コアの人たちがつくった土壌の上で商業が展開されていくわけで、豊かなその土地が本当の意味で汚されることはないように思うんです。むしろ住み分けが生まれていくほうが楽なんじゃないか、とか。

――好きなジャンルはそれぞれでも、音楽に馴染みのある人は多い。でも短歌はまだ、関心があるか、ないかで二分されているところがありますもんね。

伊藤:そうそう。私は短歌がメジャーになっていくことで、人が増えてお金が回りだしたら、もっと面白くなると思っていて。その入り口を広げるようなことが、結果的にできたらいいなと。

――期待しています! ちなみに、6月30日から池尻大橋の「OFS GALLERY」でまた展示があるそうですが、詳細を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?

伊藤:今回は、言葉と絵の展示です。私は、歌集『肌に流れる透明な気持ち』や『満ちる腕』でお世話になった、グラフィックデザイナーの脇田あすかちゃんと「Relay」という作品をつくりました。私の短歌を見て、あすちゃんが絵を描き、その絵を見てまた私が短歌を書く……というリレー形式で制作しています。短歌と絵、それぞれ独立した作品でありながら、影響を受け合い、テーマがどんどん変わっていく。現段階(5月中旬)では、お互いの作品に対して何も感想を言い合っていないので、最終的にどんなところへ到達するのか、私たちも全くわからないんです。

――これまた新しい短歌の見せ方ですね!

伊藤:もう一つ、歌人の穂村弘さんとイラストレーターの坂巻弓華さんの「長いタイトルの絵」という作品が展示されます。こちらも楽しみです。とても面白い展示になると思うので、ぜひ遊びにきてください。

イベント概要

ことば と え の 4 人
穂村弘 × 坂巻弓華 / 伊藤紺 × 脇田あすか
http://ofs.tokyo/gallery/4personsofwordsandimages/

会期:2023.6.30(金)~ 2023.7.30(日)
会場:OFS GALLERY
open:12:00~20:00(最終日は18時まで)
close:火・水

※期間中に関連イベントの開催を予定。詳細はギャラリーのSNSを確認。

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