『逃げ恥』ファン必見! 海野つなみ新作『クロエマ』はさらに複雑な味わいが愉しめるライフハック漫画

海野つなみ新作『クロエマ』の魅力

 『逃げ恥』の愛称で知られる人気コミック『逃げるは恥だが役に立つ』の作者・海野つなみが、10年ぶりに『Kiss』(講談社)で連載している新シリーズ『クロエマ』。その第1巻が6月13日に発売された。

複雑な味わいをゆっくりと愉しみたくて

 「そう、そう、これこれ!」と、読み進めるうちに、なんとも言えない満足感が広がる。それは、お気に入りのデザートをひとくち、またひとくちとじっくり味わうかのように。ページをめくるたびに、あとどのくらい残っているのかと左手の紙の厚みを感じ、“終わってほしくない“と願いつつ、その至福の時間を惜しみながゆっくりと愉しむ。そんな気分になるのが海野作品の特徴だ。

 それは、丁寧に仕込まれた複雑な味わいを見逃したくないから。コミカルでサクッと軽い口当たり、しかしどこかほろ苦さもあって、飲み込んでもなお「ん? この味は一体?」と引っかかる……そうした何層にも渡って仕掛けられた複雑な味わいがある。

 しかも、今作は女子二人による“ゆるふわミステリー“ということで、さらにその深みは増す。巻末の“後書き“によれば、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系・2021年)と『トリック』は(テレビ朝日系・2000年)のようなテイストを目指して構成が練られていった作品だという。それはそれは一筋縄ではいかないのは明白で、嬉しい限りだ。さらに、海野も「30P分の内容を24Pに詰め込んでいる?」と言わずにはいられないほど、情報がギュッと濃縮されている。とても丼をかっこむような感じで読みたくはないのだ。

いずれ「出ていく」がちょうどいい女子2人

 さて、そんな本作の最初のセリフが「野宿…野宿…野宿…野宿…できるところ」と来たもんだ。30歳の女性がなぜ野宿ができる場所を探し求めているのか。1コマ目から、何があったのかと気になって仕方がない。

 彼女の名前は「江間章(エマショー)」。もともと母親と2人暮らしをしていたものの、27歳のときに母が他界。そのタイミングで職場恋愛をしていた彼氏と同棲をするも、彼は浮気相手とデキ婚。家を追い出された挙げ句、さらに会社も潰れてしまって、あっという間に「住所不定・無職」に。住まいが決まらないと仕事も探せない。でも、仕事をしないと家を借りられない。という、まさに「人生詰んだ」状態。行く宛もなくさまよっていたところ、たどり着いたのが、黒江神名(クロエカナ)の住む豪邸だった。

 クロエはエマショーより2歳年上の32歳。そして彼女の横には、色恋とは無縁そうな雰囲気で出入りをしている男性・下門賢志郎(シモン)の姿が。シモンはエマショーにも温かなお茶と美味しいクッキーを用意してくれる。果たして2人がどんな関係なのか。なぜクロエがこんなに大きな屋敷に住んでいるのか。謎が謎を呼ぶ幕開けだ。

 年齢の近い女子2人が出会ったとしても、すぐに意気投合!……なんてことはない。クロエはシモンに促されてエマショーに特技の占いをするも、しっかり相談料は請求する(1000円)。対して、エマショーも「そのかわり門の脇で寝かせてほしい」とダメ元で交渉(「クッキーとお茶とトイレもごちそうになった」と感謝の言葉を忘れない)。

 むやみに人を近づかせないように無愛想にしているクロエと、ギリギリの図々しさにトライしていくエマショー。きっと彼女たちは環境こそ違えど、根本にある「お人よし」なところが似ているのかもしれない。お互いに「役に立たない」「感じ悪い」と思いながらも、エマショーが自立するまでの間、2人は共同生活を送ることに。

 基本的には人にやさしくありたい。でも、お人よしにはちょっと気を抜くと、それを当たり前として搾取してくる人に群れがち。アラサーの彼女たちはもうそれを知っている。だからいつだって「出て行く」ことが前提にあるこの関係性が、ちょっと気楽にも思えるのだろう。そして、むしろその距離感だからこそ率直に言葉を交わすことができるところも、なんだかわかる気がする。

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