人気絵本作家・柴田ケイコの最新作『パンダのおさじとフライパンダ』創作の秘訣「自分と読者の“ワクワク”が重なるように」

柴田ケイコの絵本が愛される理由

子どもは小さなところにも楽しさを探している


――2020年に一作目が発売された『パンどろぼう』シリーズも、子どもから大人まで幅広い世代から愛される大ヒット作品になっています。

柴田:もうパンどろぼうくんが私の手を離れて、勝手にいろいろなところに行っている感じですね。プレッシャーをひしひしと感じております(笑)。

――主人公のパンを被った泥棒という特徴的なキャラクターは、どのように生まれましたか?

柴田:私の絵本は食べ物が出てくることが多くて、『しろくま』シリーズなんかはほぼ全部食べ物をテーマにしているんですが、それを見てくださった出版社の方から「パンのお話はどうですか?」と提案いただいたのがきっかけです。

 あのキャラクターについては、実は私の名刺が元になっています。絵本に出す前から、パンを被ったしろくまくんが逃げているというオリジナルのイラストを名刺に描いていて、それを出版社の方に渡したら面白がってもらえたので、「パンの泥棒って今まで描いたことないし、考えてみようか」という流れでした。

――絵本は子どもの教育的な役割もあると思うので、泥棒のキャラクターを前面に出すことが、少しチャレンジングに感じました。そういった部分に迷いはなかったんでしょうか。

柴田:そこは特になかったですね。教育的な本って、私自身苦手なんですよ。こうしたらいい、ああしたらいいと促すようなメッセージ性が強い本も大事だとは思うんですが、私が描きたいものじゃないなと。私が描きたいのは、読んでいてワクワクするような絵本なんです。「この後どういう展開になるの!?」という感じの方が面白いし楽しいなって。それを受け入れてくれた出版社にも感謝ですね。

――確かに『パンどろぼう』シリーズは、どれも展開が面白い作品ですよね。

柴田:子どもにも先がわかるようなお話は、あまり面白くないんですよね(笑)。最後まで読んで「やっぱりこうなるよね」と普通に終わっちゃうよりも、読みながら「え!? 次どうなるの?」って思ってもらって、最後には「面白かったー!」とか「お腹減ったー!」とか、強い印象が残るような話の方が自分も楽しいし、読者にもそう思ってもらえるんじゃないかと。

――イラストの中に文字が書いてあったり、ちょっとした仕掛けがあったりして、子どもが楽しく読める要素が盛り込まれていますよね。

柴田:絵本はいろいろなところに遊び要素があるんです。子どもは文より絵を見て楽しむので、絵が楽しくないとダメなんですよ。絵の中に潜んだ仕掛けを見つけるのも子どもの得意なところだと思います。大人はあまりそこまで見ないかもしれないけど、子どもは小さなところにも楽しさを探しているんです。だから私もそれに乗っていかないと(笑)。

――子ども心を熟知されているんですね。

柴田:いや、まだまだ子どものことはわからないですよ(笑)。でもなるべく、子どもも大人も楽しめる絵本を作りたいと思っています。

――その一方で、文章においては少し大人っぽい言い回しもあるように感じました。『パンどろぼう』の一作目で、パン屋のおじさんが泥棒という行為が悪いことであるとパンどろぼうを諭す場面では、「そもそも」という言葉から始まりますね。

柴田:あそこは特に大事な場面なので、そこはきっちり言っていただこうと思いました。もちろん難しい言葉は使えないですが、子どももわかるように、でも大人の言葉で言ってもらおうと。

フラットでいられる高知を拠点に


――柴田さんはずっと高知県で活動されていますが、活動拠点を東京などの都心に移そうと思ったことはなかったのでしょうか。

柴田:大学時代に奈良県へ行ったり、そのあと就職で香川県に行ったりもしたんですが、それ以外はずっと高知にいますね。人混みが苦手なのもありますが、インターネットも普及し始めて、この職種は地方でもいけると思ったんです。

 イラストレーターとして独立するときには営業的なこともしましたが、それも高知市内でした。SNSなどもない時代だったので、紙のファイルを作って何社かデザイナーさんに見せたりして。でも仕事が全然来なかったので、東京のデザイン事務所にも郵送やメールで送っていましたね。今考えればよくやったなと思います(笑)。

――地元から出なくても不便や不安を感じることはなかったんですね。

柴田:東京に住んでいないことに対する不安はなかったです。高知じゃないといけないという強い心があるわけではないんですけど、東京に出なくてもいいかなって。ただ当時はとにかく仕事が欲しくて必死だったので、高知に居ながらできることをすべてやろう、という気持ちでした。

――高知県は柴田さんから見てどんな印象ですか?

柴田:自然に囲まれているところが良いなと思います。もちろん都会の方が文化施設は多いし、様々な刺激を受けたり、いろいろな情報を得たりできると思うんですけど、高知はそうじゃないものでインプットできるというか。情報はネットで見ることもできますしね。

 もちろんリアルで感じるなら都会の方がいいでしょうけど、そういった刺激を毎日受けないとイラストや絵本を描けないということはないと思うんです。だから、私は心がフラットでいられる高知に住んでいる方が合っているかなと。美味しいものもたくさん食べられますしね(笑)。

可愛いだけじゃない、理想も込めた“おさじくん”


――最新作の『パンダのおさじとフライパンダ』は、どんな作品になりましたか?

柴田:ポプラ社さんの「1分えほん」シリーズで「てくてく パンダくん」というお話を作ったことをきっかけに生まれた絵本で、主人公のパンダのおさじくんが幸せを届けるというお話です。

――今作も、先の読めないストーリー展開にワクワクさせられました。どんな風にアイデアが生まれたんでしょうか。

柴田:“とある事件”が起こるあのページは、私が実際にお鍋で料理を作っているときに浮かびました。「この蓋を開けたとき、こんな展開になったら面白いだろうな」って(笑)。気に入っているのは、おさじくんが呪文に合わせてダンスするシーンです。子どもが覚えやすいように、なるべく短くて呪文のようなリズムの言葉を考えたので、読み聞かせをしてもらいながら一緒に踊ってくれたら嬉しいです。

――あの印象的な呪文には、何か思いが込められているんでしょうか。

柴田:料理を作るときの「おいしくなぁ〜れ」という思いを込めています。古典落語の「死神」という演目の中に、呪文で死神を追い払う展開があって、個人的にその呪文が好きなのでそれをヒントに思い浮かべました。

――おさじくんは、小さくてカラフルな可愛い見た目と礼儀正しい性格が、とても素敵なキャラクターです。

柴田:おさじくんは、「こんなパンダがいたらいいな」という私自身の理想に近づけたキャラクターなんです。手のひらサイズのパンダなら、どこにでも連れていけるからいつも一緒にいられるし、隠れやすいですよね。枕の横でちょこんと一緒に寝てくれたら可愛いだろうなって(笑)。子どもって、お気に入りの人形やぬいぐるみをどこにでも連れていったりするじゃないですか。その感覚と同じです。

 ただ、性格は可愛いだけじゃなくて、私のだらしなさを正してくれたり、応援してくれたりする。そんな存在がいいなと思って作りました。

――美味しそうな料理や食べ物のイラストも見どころの一つだと思います。

柴田:料理のイラストは、妥協せず私なりに美味しそうに描くことと、実際に作れるようなデザインにすることを意識して描きました。

――最後に、今後の目標や挑戦してみたいことはありますか?

柴田:大きなチャレンジはあまり考えていないのですが、自分が納得するお話で読者をいかに楽しませられるかという部分を突き詰めていければと思います。自分の思いと読者の思いが一緒になればいいなと。それが伝わるような絵本をこれからも作っていきたいですね。

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