人気絵本作家・柴田ケイコの最新作『パンダのおさじとフライパンダ』創作の秘訣「自分と読者の“ワクワク”が重なるように」

柴田ケイコの絵本が愛される理由

 シリーズ累計170万部を突破した大人気の絵本『パンどろぼう』。インパクト抜群のキャラクターと楽しいイラストで、多くの人々を虜にしている作品だ。その作者である柴田ケイコさんが、最新作『パンダのおさじとフライパンダ』(ポプラ社)を発表。作中に登場する可愛いパンダと美味しそうな料理に加え、『パンどろぼう』にも通じる驚きのストーリー展開が楽しめる。大人から子どもまで夢中にする絵本を世に送り出し、ファンを増やし続けている柴田さんに、“パンどろぼう”が生まれた経緯や絵本作家に対する思い、地元の高知県を活動拠点にしたこと、最新作の魅力について話を伺った(南明歩)。

絵本作家は愛着が持てる仕事


――幼少期の柴田さんは、どんなお子さんでしたか?

柴田:わんぱくでおてんばな子どもでしたね。地元が高知県の田舎なので、公園や裏山でよく遊んでいました。公園にあったゆりかごのような遊具を友達と一緒に一回転させたりして(笑)。ゲームもない時代だし、親もわりと放任主義だったんです。

――ご両親から絵本を読んでもらったことはありますか?

柴田:読み聞かせをしてもらったことはないと思います。うちは両親が共働きだったし、家庭によると思いますが、今ほど読み聞かせを大事にする時代じゃなかったんですよ。だから我が家には全然絵本はなかったです。その代わりに漫画と映画が好きな親だったので、それの影響が大きかったかもしれません。

――絵を仕事にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

柴田:勉強が苦手な私の唯一得意な教科が図画工作だったんです。逆にそれしかできない子でした。小学校時代に地元のコンクールで賞をもらったとき、「あ、私ができることってこれなんだ」と初めて肯定感が生まれたんです。だから絵しか選択肢がなかったというか。小学校3年生くらいのとき、親に「画家になりたい」と言ったら「それじゃ食べていけない」って笑われたこともあったんですが、他のことにはどうしても興味が湧かなかった。だから大学も芸術系を選んだんですが、勉強ができないから学力試験のない、デッサンだけの学校を受験しました(笑)。

――卒業後はデザイナーとして活躍され、その後イラストレーターに転身されたそうですね。どういう経緯だったのでしょうか。

柴田:最初はデザイン事務所で働いて、広告などのグラフィックデザインをやらせてもらっていました。私はイラストで説明する感じの記事を担当することが多くて、実際にやってみるとデザインを組むよりイラストを描く方が楽しいってわかったんです。

 その事務所から独立するタイミングで、デザイナーを続けるかイラストレーターになるか迷ったんですが、当時の先輩が「あなたはイラストレーターの方が向いている」と背中を押してくれて。イラストで食べていけるのかっていう不安はもちろんあったんですけど、せっかくやるならやりたいことをやろうと、そこで覚悟を決めました。


――デザイナーとイラストレーターは、柴田さんにとってどんな職業でしたか?

柴田:作るという点では一緒ですが、ジャンルが全く違う印象ですね。デザイナーは正直自分には向いていなかったと思います。文字の並び方など細かいところまで丁寧である必要があるし、時間も限られているのでスピードも求められます。あとレイアウトを組むとき、私はどうしてもイラストを入れたくなっちゃって(笑)。

 イラストレーターになってからも、「●日までにこれを描いて」とか「こういう感じのポスターを作るからこういうイメージで」とか指示が来るのである程度の制約はあるんですが、イラストを自分のスタイルで描ける自由さはありますね。今もイラストのお仕事を受けていますが、絵本とは全く違うと思います。

――どんな風に違いを感じていますか?

柴田:私にとって絵本作家は雲の上のような存在でした。実際に絵本作家になる前は、絵もストーリーもきちんと作れる人たちだけがやる分野で、力がないと絶対にできないお仕事だと思っていたので。でも、「この人のイラストいいな」「この絵本いいな」っていう憧れはありました。

 そこから一番大きく気持ちが動いたのは、子どもができてからですね。子どもが小学生のとき読み聞かせのボランティアに参加していて、他の人が紹介する絵本を見ることがすごく勉強になりました。

 絵本作家として活動し始めてからは、自由に作れる分、責任が大きい職業だと感じています。作品としてずっと残るし、作品の向こう側には読者がいるわけですから。もちろんそこが面白いところなんですけどね。お話をゼロから作るという醍醐味もあるから、愛着が持てる仕事だと思っています。

メガネをかけることがポジティブになれば


――2016年に発売した柴田さんのデビュー作『めがねこ』は、制作に8年かかったとお伺いしました。

柴田:何度も書き直して苦労して……というより、悩んでいる期間が7年くらいあった感じですね。構想自体はもともとあったんですが、なかなか着手できなかったんです。当時はイラスト中心の仕事をしていましたし、子どももまだ小さかったので考える余地がなかったんですよ。それに、どんな風に話を作ればいいのかもわからなくて、自信もなかった。「私に絵本が作れるのかな?」って。チャレンジする勇気がなかったというか、この年で新しいことを始めるという気力も必要でした。

――そこから一歩踏み出したきっかけは何だったのでしょうか。

柴田:タイミングですね。子どもが小学4年生くらいになって、ある程度自分のことは自分でできるようになった時期に、イラストレーター時代にお世話になっていた手紙社さんへ相談しに行きました。

――なるほど。忙しい中でも、「絵本を作りたい」という情熱はずっと消えなかったんですね。

柴田:『めがねこ』を作るきっかけが、息子が弱視だとわかったときに「メガネをかけることがポジティブになるような絵本があったらいいな」と思ったことだったので、作品として残したい気持ちが強かったんです。それはもちろん自分のためでもありましたが、同じような状況で不安になっているお子さんや親御さんのためにもなるんじゃないかと思って。幼い頃にメガネをかけるのは、すごくハードルが高いものだと思うので。発売後は、メガネ屋さんに置いてもらえることもあり、嬉しかったです。

――読者の方からの反響はいかがでしたか?

柴田:「子どもが嫌がらずにメガネをかけてくれるようになりました」とか「このまま治らなかったらどうしよう、メガネが原因でいじめられたらどうしようという不安が、この絵本を読んで少し和らぎました」という声をいただきました。そういった感想が一番嬉しかったですね。

――絵本は子どものためだけでなく、大人のためのものでもあるんですね。

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