単行本化にあたりゼロから描き直す!? 『レ・セルバン』前代未聞の決断の裏にある、濱田浩輔が作品にかけた思い

『レ・セルバン』濱田浩輔インタビュー

単行本化にあたりゼロから描き直す、前代未聞の決断の裏側

――連載に至るまで、そして1話の原稿が完成するまでに、並々ならぬ作品への想いがあったと思います。にも関わらず単行本化では、1~5話をゼロから描き直すというご決断をされたのですか。

濱田:ゼロから描き直すことに関しては、そもそも僕が言い出したんです。

千代田:実は単行本化にあたり、第3話「時の片隅」を抜きませんか?と濱田先生に相談をしました。でも、3話を抜くなら1~5話を全部描き直したいと仰られて。理由を聞いたらその方が作品として筋が通っていると感じたんです。

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――第3話「時の片隅」は、セルバンとアルシノエが死者の世界である「凪の村」に迷い込むお話しでしたよね。そもそもなぜ単行本から抜こうとご提案されたのですか。

濱田:3話って少し変わったお話なんですよね。『レ・セルバン』という世界の“神話”に触れた物語。どちらかといえば、ドラマよりも世界観がより見えてくる回だったのですが、何も3話という早い段階でやらなくても良いのではと。つまり、世界観などの設定よりドラマ重視で読み進めてもらった方が良いから、千代田さんは3話を抜きませんか?と相談されたのだと思います。

千代田:そうですね。連載時は先に設定を見せたいと思ってやっていましたが、それよりも読者には、セルバンやアルシノエといったキャラクター、そしてドラマに集中してもらった方が良いと思ったんです。それで、3話を取りましょうとご提案して、それならばそもそも1~5話は設定重視で描いていたから、ドラマ重視で描き直したいと濱田先生から提案されました。

――裏を返せば、3話を抜くという相談がなければ描き直しする提案も生まれなかったということでしょうか。

濱田:でも、時間が経つにつれて結局は同じ決断をしていたように思います。単行本で初めて『レ・セルバン』を読む人のことを想定しながら原稿を何度も読み返したのですが、やっぱり読者はドラマの方が先に見たいのかなと。世界観を先に見せるというコンセプトで連載版を描いていましたが、セルバンとアルシノエのドラマを先に楽しんでもらった方が面白いのかもしれないと思っていたんです。これが描き直しの動機なので、千代田さんの相談がなくとも描き直していたと思います。

要素は変えずに組み替えていく

――新たに描き直された1~5話を拝読して、連載時とは全く違う、新しいものになっていて驚きました。

濱田:描き直すといっても、物語の大筋や起きた出来事自体は変えていないんです。連載時はアルシノエの目線で描いていたので、それをセルバンへと移動させた。元々、主人公は誰なのか問題みたいなものが自分の中にありまして。僕の中ではセルバンが主人公だと思っていたのですが、連載時はアルシノエとも読めるじゃないですか。どちらも主役級ではありますが、作品の軸としてはやっぱりセルバンなので、描き直すことでそこがよりはっきりしたかなと思います。他にも、いつか描こうと思っていた邪竜が出現した日の話を単行本の1話目に持ってきたのですが、その方が『レ・セルバン』という物語の理解がより深まるんじゃないかなと。

――物語の大筋や出来事自体は変えていないと仰っていましたが、連載時のエッセンスを失わずに再構築する作業はかなり苦戦を強いられたのではないかと思います。

濱田:確かに描き直す際はかなり苦戦しましたね。連載時に描いたシーンを残して描き直そうとするとかえって苦しむので全てリセットして取り組みました。ただ、連載時の要素と言いますか、例えばセルバンとアルシノエの関係性だったり……要素自体は絶対に変わらないので、そこはぶらさずにもう一度ゼロから組み替えていきました。

1巻、P45より

千代田:担当編集としても、もうゼロから作っていくんだという気持ちで臨みました。連載時の1話をめちゃくちゃ読み込んだり、当時見ていた映画やアニメの話をしたり、とにかく長時間に渡って話をしていた記憶があります。例えば『ファイナルファンタジー』『新世紀エヴァンゲリオン』『ベルセルク』『葬送のフリーレン』などの作品について語り合うことで、お互いにファンタジーにおいてかっこいいと思うところ、あるいは譲れないところ、大切にしたいものが擦り合わさっていったように思います。

――そもそも、単行本化にあたりゼロから描き直すのは滅多にないことのように感じますが、編集部としてもかなり勇気のいる決断だったと思います。

千代田:そうですね。ゼロから描き直すとなると、その分休載が発生してしまいますし、単行本の発売も当初の予定から遅らせることになります。ですので、当初は編集部からも難色を示されました。ですが、最終的には描き直したネームを読んでもらい、その完成度の高さと面白さでゴーサインが出ました。ただ、連載時の1~5話もめちゃくちゃ面白いですし、本気で作ったものなので、いつか単行本に収録できたらなと思っています。

――今後も単行本化に伴う、描き直し作業はされるのですか。

濱田:5話以降は、連載時でも目線がセルバンへと完全に移行しています。今回1~5話を描き直したことで連載分と帳尻が合ったと感じているので、もうそういった作業は発生しないかと。

――ゼロから描き直した1~5話の中で、特に思い入れのあるシーンを教えてください。

濱田:描き直す際に絶対に入れたいなと思ったのは、セルバンが「取り戻す」と一人で言うシーン。眠っているアルシノエを背負いながら、奪われた国を見つめ、全てを取り戻すと誓う……この見開きのシーンは絶対にやりたいと思っていて、むしろ描き直す際の中心にきていると言っても過言ではない。

1巻、P50〜51より

濱田:あとは、5話でセルバンとアルシノエが雨のなか草むらを歩いているシーン。このシーンと前後を含む8ページに、連載時の1~2話で描いた“旅感”を詰めました。単行本を読む際はぜひ注目してみてほしいです。

誰かが誰かを想う……ファンタジーにおける愛に注目してほしい

――最後に単行本と今後の見どころを教えてください。

濱田:単行本は、やっぱり連載を読んでいた方と未読の方で抱く印象というか感想が分かれるのかなと思っています。僕は『レ・セルバン』という物語を通して、ファンタジーにおける愛を描きたいなと思いっていて。例え悲惨な運命が待ち受けていたとしても、誰かが誰かを想う……そう言った気持ちを大切にして描いているので、単行本で初めて本作を読む方は、ぜひそこに注目してほしいです。連載を読んで下さっていた方は、1~5話の違いを探していただけたらなと思いますし、もしかしたらより作品の解像度が高まるかもしれません。楽しんでいただけたら嬉しいです。

千代田:今まではセルバン御一行という狭いパーティーの話がメインでしたが、今後は例えるならRPGでワールドマップを手にしたような……物語の世界がさらに広がっていきます。ファンタジーならではの世界の広さ、そして新しいキャラクターも登場するので、群像劇としての面白さが見えてくると思います。ぜひ楽しみにしていてほしいです。

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