『光が死んだ夏』モクモクれん先生再登場 『このマンガがすごい!2023』オトコ編1位を獲得した今思う、Webマンガの現在地

 各界のマンガ好きが選んだ、その年の“すごいマンガ”をランキング形式で紹介するガイドブック『このマンガがすごい!2023』(宝島社)。今年は、モクモクれん先生の『光が死んだ夏』(KADOKAWA)がオトコ編第1位に輝いた。

 いつも隣にいる友人が、ある日突然全く別の”ナニカ”にすり替わっていたとしたら――。そんな世にも奇妙な入れ替わりから始まる本作。閉塞感漂う田舎町、まことしやかに噂される不気味な伝承、不可解な事件など、思わずゾッとするようなホラー要素を散りばめながらも、“ナニカ”になってしまったヒカルと、そんな彼の側から離れないよしき、2人の少年の間で揺れる複雑な感情を鮮烈に描いた本作。


 今回は、7月に当サイトインタビュー「話題の青春ホラー漫画『光が死んだ夏』作者が明かす、“恐怖”を表現するためのこだわり」にて、本作の誕生秘話や創作の裏側について話を伺ったモクモクれん先生が再登場。『このマンガがすごい!2023』オトコ編第1位を受賞してからの心境の変化や、単行本の表紙に込められた思い、そしてモクモクれん先生が選ぶ“このマンガがすごい!”など……たっぷりと語ってもらった。(ちゃんめい)

「変わらずに頑張りたい」受賞後の今、思うこと

――この度は『このマンガがすごい!2023』オトコ編第1位、おめでとうございます!受賞されて心境や活動の変化はありましたか?

モクモクれん:ありがとうございます。身に余る光栄な賞をいただいて本当に恐縮ですが、変わらずに頑張ろうと思っています。やっぱり『光が死んだ夏』は、いろいろなジャンルが混合している作品なので、ホラー、サスペンス、ブロマンス……一体ジャンルは何なのかという声もいただきますが、当初の気持ちを忘れずに、方向性は変えず引き続き頑張りたいです。


――制作環境は連載初期と比べていかがですか?

モクモクれん:基本的にはずっと変わらないです。連載当初から変わらず同じツールとソフトを使って描いています。ですが、単行本2巻あたりからはアシスタントを雇うようになりましたね。

 ――1巻はお一人でやられていたのでしょうか。人物はもちろん、あの緻密な背景のことを考えると本当に驚きです。

モクモクれん:1巻は全部一人で描いていて、でも2巻も8〜9割は自分で描いているのですが(笑)本当に大変な時はアシスタントというか、絵が上手な友人たちに手伝ってもらっています。基本的に背景をお願いしていますが、私が描く絵と変わらないくらい馴染んでいて、もうみんな本当に上手なんです。いつも手伝ってくれる友人たちには本当に頭が上がらないですね。

Webマンガの現在地と課題とは

――昨年の『ルックバック』(藤本タツキ)に引き続き、Web連載から書籍化となった『光が死んだ夏』がオトコ編1位を獲得。Webマンガの勢いを象徴するような出来事だと感じましたが、モクモクれん先生はWebマンガを取り巻く現状についてどのように考えていますか?

 モクモクれん:Webマンガの普及によって、版元や掲載誌を意識する感覚は徐々に無くなってきていて、シームレスに作品単体で見てくださる読者さんが増えた印象があります。例えば、SNSで『光が死んだ夏』を紹介してくださっている方の投稿を見ていると、コメント欄には「どこの雑誌で連載しているの?」ではなく、「どこのサイトで読める?」「どこのアプリ?」という声が多くて、時代の変化を感じました。これからもWebマンガはさらに増えていくのではないかなと思いますが、私は紙のマンガも引き続き盛り上がってほしいなと思います。私自身、紙のマンガはもちろん、紙ならではの装丁が大好きなので。

――Web連載のメリット、一方でデメリットを感じたことはありますか?

モクモクれん:それこそ、『光が死んだ夏』はWeb連載だからこそ、多くの方に読んでもらえたのかなと思っています。そもそも“モクモクれん”という名義での活動はこの作品が初めてで、しかも作家としてはほぼゼロからのスタート。でも、Web連載だから、読者さんがTwitterでシェアしたり、TikTokでキャラクターのコスプレをしてくださったり……拡散しやすかった点が大きなポイントなのかなと。これによって、作者の知名度と関係なく作品の認知度が上がっていったように感じます。

――紙で連載されていても目をつける読者さんはたくさんいらっしゃったかと思いますが、確かに『光が死んだ夏』は単行本が発売される前のWebでの人気ぶりはとても印象的でした。反対にデメリットはいかがでしょうか。

モクモクれん:デメリットというよりも、課題に思っている点が一つあって。やっぱりWebマンガは無料で読めるのが主流だからか、SNSなどを見ていると「マンガを買う」という概念は薄くなってきているのかなと。これは作家の収入に関わる部分なので重要な課題だと感じていますが、まずは読んでもらうことが大事なので、無料公開という仕組みには賛成ですし、私もどんどんやっていきたいなと思っています。無料公開を読んで作品を気に入ったら、ぜひ購入していただけると嬉しいですね。

マンガを読むならTwitter?!新たな可能性を探る

――今後、Web連載だからこそ、チャレンジしてみたいことはありますか?

モクモクれん:実は今もやっているのですが、Twitterで最新話の更新報告をする時に必ずおまけのイラストを添えているんですよ。

――隔週火曜日の更新ですが、更新がない週もイラストを投稿されていますよね。

モクモクれん:Twitterでしか見れない、おまけのイラストがあったら面白いかなって。こういったSNSとの連動はWeb連載ならではだと思うので、引き続きやっていきたいです。

モクモクれん:あと、今後TwitterなどのSNSは、こうしておまけイラストを投稿するだけではなく、読者さんにとってはマンガ雑誌やWebマンガサイトと同等の存在になっていくのではないかなと思っています。例えば、もともとTwitterで掲載されていた作品が書籍化や連載化したり。昔は、マンガといえば雑誌に掲載されているもので、マンガを読むなら雑誌を購入するのが当たり前だった。けれど、ネットの普及によって、マンガを読むならWebマンガサイトやマンガアプリという新たな手段が生まれた。これからは、マンガを読むならTwitterという具合に、SNSもマンガを読む時の行動手段の一つになっていきそうだなと思っています。

快挙の秘訣は装丁デザインにあり?

――『光が死んだ夏』は、1巻発売前からTikTok・Twitterなど各SNSを通じて爆発的に話題を集め、さらに単行本1巻発売後も3ヵ月で20万部を突破[愛石1] するなど快挙づくめでしたよね。Web連載はもちろん、単行本でもヒットを出す……Webマンガにおいて、この理想的な流れを生み出せたのはなぜだと思いますか?

モクモクれん:正直私もわからないんです。Webで流行ったから電子書籍で売れるのかと思いきや、部数的には紙の単行本の方がすごく売れていて、とても不思議に思います。でも、単行本に関していうと装丁にすごくこだわったんですよ。最終的にはデザイナーさんに綺麗に整えていただきましたが、大まかなデザインはもちろん、使用する紙質なども全部一から自分で考えました。


――デザインだけではなく、紙質まで!

モクモクれん:何度も本屋さんへ行って、装丁デザインや使用されている紙質について研究したり(笑)。でもこの装丁へのこだわりがあったからこそ、読者さんの“コレクションしたい欲”みたいなところに響いたのかなと。

――紙質のこだわりについて詳しく教えてください。

モクモクれん:絶対にザラザラしている紙が良いなと思ったんです。感覚的なお話ですが、作中でもざらついた質感を意識しているので、装丁もツルツルしているよりもザラザラしている紙質が良いだろうなと。それで、ザラザラしつつも発色が綺麗に出る紙を選びました。


――確かに絶妙な質感ですよね。背景色も印象的で目を引きますが、こちらもこだわりがあったり?

モクモクれん:これは続刊が出てくるとさらに分かりやすくなると思うのですが、空の色を意識しているんです。並べると、時間が経って空の色が変化していくのがわかる……という演出をしたくて、最終的にグラデーションになったら嬉しいなって。より綺麗に発色するように、1巻も2巻も特色インクを使用しています。

――本当だ!先ほど仰っていた“コレクションしたい欲”はこういったこだわりが読者さんに響いたのかもしれませんね。

モクモクれん:背景が空であること、あと時間帯が伝わるように、光やよしきの“太陽光の当て具合”も意識しています。この時間の空はこういう風に光が差し込むだろう、とか、夕暮れって意外とピンクっぽいよなぁ……とか、参考資料を見ながら脳内でシュミレーションして描いています。

――担当編集の山本さんは、モクモクれん先生の装丁デザインのこだわりについてどう思われますか?

山本:『光が死んだ夏』の連載が決定した時、既にモクモクれん先生の中で、作品の見せ方はもちろん、こういう形で読者さんに届けたいという明確なイメージを強く持っていらっしゃったんですよね。それが先ほどお話されていた装丁デザインや紙質、あと帯などの細かいところの話になります。やっぱり、自分の作品をこういうふうに見せたい!という確固たるものがあったからこそ、書店に並んだときに「目が離せない本」になっていたんじゃないのかなと思います。

――目が離せない本……!

モクモクれん:書店で目立つかどうかという点はかなり意識しましたね。もう、単純に自分の作品が埋もれたくない!という気持ちで(笑)。情報量が少ない方が逆に目立つかな?と思って、背景はもちろん、帯も極力シンプルにしてもらったり。書店で並んでいる時に青い四角がドンッてあるくらいに見えたら良いなと(笑)

山本:書店で購入しなかったとしても「そういえば青い本あったな」みたいに、1回見ただけでずっと記憶に残るんですよね。だから、その後にTwitterなどのSNSで『光が死んだ夏』の書影が流れてきた時に「あの時のあれだ!」って蘇りやすい。そういう“覚えやすさ”というか、単行本を手にするまでの蓄積が緻密に作り込まれているなと思います。

――装丁デザイン以外だと、Web連載、そして単行本でもヒットを出すという理想的な流れを生み出せたのはなぜだと思いますか?

山本:やっぱり『光が死んだ夏』に、電書だけではなく、紙の本で印刷された状態で読みたい、手元に置いておきたいと思わせる魅力があるからではないのかなと。モクモクれん先生が描く美麗な絵を紙に印刷された状態で見ると、墨の濃淡を感じられたり、電子では味わえない魅力がありますよね。

モクモクれん先生が選ぶ“このマンガ・装丁がすごい!”

――ここからはモクモクれん先生のパーソナルな部分をお伺いしたいと思います。まずは、モクモクれん先生が選ぶ“このマンガがすごい!”を教えてください。

モクモクれん:『メイドインアビス』(つくしあきひと)です。今年の頭くらいに読み始めたのですが、本当に面白くて、原作を何度も読み返したり、何回もアニメを観たり……それくらい大好きな作品です。

――本作のどんな点が刺さりましたか?

モクモクれん:設定の緻密さが刺さりましたね。物語の大まかな構造以外にも、言語や文化、その世界で生活している人の設定とか、とにかく細かいんです。私も細かい設定を決めるのが大好きで、実は『光が死んだ夏』もまだ放出できていない設定が山のようにあります。単行本のおまけや、2巻の初回出荷版に付いている学生証(*1)みたいなところで今後も出していけたら良いなと。

*1・・・裏には公式LINEアカウントのQRが付いており、作中の用語などを送るとヒカルとよしきが答えてくれる。モクモクれん先生直々に、ほぼ全ての回答を書き下ろしたことでも話題に。

モクモクれん:あと、 『メイドインアビス』は、あの“一線を踏み越えた”感がすごく好きですね。好みは分かれるとは思いますが、例えばグロ描写や展開のエグさだったり「このマンガ、ここまで行っちゃうんだ!」みたいなところ。『光が死んだ夏』も、一線を超えたい、いやその絶妙なラインに触れたいという気持ちで描いています。

――好きなキャラクターをあげるとしたら誰でしょうか。

モクモクれん:ナナチですね。あと、ミーティ。2人ともちょっと似てるかもしれないけど。

――他にお気に入りの作品はありますか?

モクモクれん:『超人X』(石田スイ)もすごく面白かったです。これはさらに面白くなるぞ……と毎回ワクワクしながら読んでいます。先ほどの『メイドインアビス』と通じる話ですが「ここまで行っちゃうんだ!」みたいなあの定石を崩していくような展開がたまらないですね。

――ちなみに、先ほど装丁デザインのこだわりについてお話いただきましたが、“この装丁がすごい!”はありますか?

モクモクれん:『街どろぼう』(福音館書店)という絵本です。表紙がマットなのですが、途中から布が使われていたりして、シンプルながら本当にかっこいい!

――絵本も読まれるんですね。マンガですごいと感じた装丁はありますか?

モクモクれん:もともと本の装丁が好きなので、デザインが気に入ったらマンガに限らず絵本も買います。マンガの装丁だとやっぱり先ほどあげた『超人X』。背表紙からタイトルがはみ出していて、これがもうめちゃくちゃかっこいいなと。あとは『サンダー3』(池田祐輝)の装丁もすごく好きで思わず “装丁買い”しました。

「新しいことはなんでも挑戦したい」これからの挑戦とは

――最後に今後の展開や挑戦したいことについてお伺いできればと思います。『光が死んだ夏』は、POPUP SHOPの開催、人気声優さんによるコミックスPVの公開など、マンガを軸に多様な広がりを見せていますが、今後やってみたいことはありますか?

モクモクれん:場所とのコラボレーションは面白そうだなと。作中に登場する方言や町の雰囲気は、三重県などの東海地方を参考にしているんです。三重県の本屋さんが「この方言は三重弁です」とか、そういった切り口で作品を推してくださっていたので、いつか地元の方々に還元したいなと思っています。

――中長期的に考えて作ってみたい作品、あるいは挑戦してみたいことはありますか?

モクモクれん:先ほどお話したように細かい設定を考えるのが好きなので、ファンタジーものはいつか挑戦してみたいです。あと、最近は動画制作にもチャレンジしているので、うまく活用できたら良いなと。

 モクモクれん:正直、今は描くのに精一杯な状態ではありますが、新しいことはなんでも挑戦していきたいですね。

――最後に読者へメッセージをお願いいたします。

モクモクれん:『このマンガがすごい!2023』オトコ編第1位の受賞をきっかけに、『光が死んだ夏』はさらに多くの方に読んでいただくことになると思います。ですが、最初に考えていたことや描きたいと思っていたことからブレないように、初志貫徹でやっていくので見守っていただけたら嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします!

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