「月刊少年マガジン」編集長インタビュー「“らしさ”は編集長でなく連載陣がつくるもの」

「月マガ」編集長インタビュー

月マガの編集力を試したい、「月マガ基地」での挑戦


――今年の2月に「月刊少年マガジンR」に代わる新しい漫画ポータルサイトとして「月マガ基地」をリリースされました。まさに先ほどお話されていたWEBという領域での新たな挑戦ですが、「月マガ基地」で実現したいことや、期待していることを教えてください。

三村:「月マガ基地」では、例えば表現の面や、今までは取り込めていない読者層に向けたものとか、漫画雑誌ではできないことにどんどん挑戦していきたいです。あとは、今まで培った“月マガの編集力”というものが、WEB、そして青年誌系の作品もあるような世界でどれだけ発揮できるのか試してみたい。外海に出てみよう、みたいな気持ちです。

――リリースされてちょうど1カ月経ちましたが、手応えはいかがですか?(*取材時は3月下旬)

三村:想像以上に好調な滑り出しです。お陰様で多くの方に見ていただいていますが、本当の勝負はここからだと感じています。例えば、「月マガ基地」にはこの作品が掲載されていると読者に認知してもらうには、各作品の強度が問われてくると思うんです。いかに作家さんと編集者が、読者にとって読む価値があると思ってもらえる作品をつくれるかが重要だなと。本当にここからが勝負です。

――特に注目されている作品はありますか?

三村:『いけない!ルナ先生R』(ぼーかん/上村純子)は、80年代に「月刊少年マガジン」で連載されていた『いけない!ルナ先生』(上村純子)が、約40年の時を経て復活したということで昔の読者から大きな反響をいただきました。

 あと、『白聖女と黒牧師』(和武はざの)は「少年マガジンR」休刊後に「月マガ基地」に移籍した作品ですが、変わらず人気を集めていて、今年の7月にはTVアニメもスタートします。

キーワードは共感と憧れ? 人気キャラクターの秘訣

――「月マガ基地」は作品のジャンルはもちろんですが、性別や年齢などが多岐にわたり、多様なキャラクターが揃っている点も印象的です。

三村:人気のキャラクターはたくさんいますが、中でも『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~』(業務用餅/六志麻あさ/kisui)に登場するマーガレットは結構支持を集めていて、個人的にも惚れ惚れしてしまうというか……。

――一体どんなキャラクターなのでしょうか。

三村:一言でいうとあまり良い子じゃないんです(笑)。人に毒を吐き散らす、いわゆる毒舌キャラなのですが、その毒というか語彙力が本当に素晴らしい。酷いこと言っているのにちゃんと面白いし、しかも共感できる部分もある。

――共感がきっかけでそのキャラクターのファンになる読者もいそうです。

三村:読者が気付いていないことを作品のキャラクターが先に言う……その瞬間に読者が納得したら共感が生まれるんです。そして、その言葉のセンスがかっこいいとさらに憧れが発生する。人気のキャラクターって共感と憧れが欠かせないんだろうなと思います。

――確かに、当たり前のことや知っていることをキャラクターに言われても面白くないです。

三村:本作には、他にもバリオスというおじさんのキャラクターがいまして。原作だとただのやられ役ですが、漫画だとすごく泣かせてくるんです。特に最新話(16話)は本当に泣けます。

――漫画だと、ということはコミカライズにあたってオリジナルアレンジを加えているのでしょうか。原作は「小説家になろう」発のWEB小説ですよね。

三村:アレンジというか、もはや原作と全く違うものになっていまして(笑)。これは、原作者の六志麻あささんがとても懐の深い方だから実現できているのですが……。このコミカライズは本当にすごいので、ぜひ読んでほしいです。

新連載続く「月刊少年マガジン」と「月マガ基地」

――「月刊少年マガジン」と「月マガ基地」の今後の展望を教えてください。

三村:「月刊少年マガジン」は、先ほど新連載が続いていて過渡期だとお話しましたが、その背景には『ましろのおと』(羅川真里茂)、『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』(川原正敏)、『くろアゲハ』(加瀬あつし)といった長期連載作品の完結が関係しているんです。今までは長期連載を支えてきた編集者たちが、これからは完全に立ち上げモードになっていく……たくさん作品が生まれる中で、誰が生き残るか熾烈な争いが始まっている状態ですが、なんとか勝負できる形に持っていけそうだなと手応えを感じています。

 各作品の主張がどんどん強くなっていって、また新たなベクトルというか“らしさ”が生まれていくのが「月刊少年マガジン」。対して、「月マガ基地」では本誌ではできないもの。型破りというか、『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~』みたいに、ユニークでぶっ飛んだ作品を増やしていきたいなと。「月マガ基地」もこれからどんどん新連載がスタートしていくので楽しみにしていてほしいです。

――おすすめの作品はありますか?


三村:『め組の大吾 救国のオレンジ』(曽田正人/冨山玖呂)です。大ヒット作品『め組の大吾』の続編ですが、独立した作品としても十分楽しめる、今一番熱い職業漫画です! 自分の命を懸けて人命を守る特別救助隊員たちの青春。人間の信念、情熱をここまで深く、熱く、かっこよく描けるのは曽田正人さんだけだと思います。読むと血の温度が間違いなく上がります。2023年秋にはTVアニメ化されるので、ぜひ今のうちに押さえておきましょう!

 『すだちの魔王城』(森下真)は、異世界と侮るなかれ。この作品は他の異世界モノとは一線を画しています。チート能力で無双……ではなく、主軸はキュートでコミカルなキャラ同士の掛け合いと、丁寧に描かれた人間ドラマ。等身大の主人公・ムラビトが、父の形見の道具屋「すだち屋」を存続するために奮闘する姿と、そんなムラビトに共感し従業員となる魔王や勇者たちの行動に笑いが漏れつつ、時にジーンとしてしまいます。異世界ファンタジー好きだけじゃなく、異世界モノに抵抗がある方にもぜひ読んでもらいたい傑作!

 そして『DYS CASCADE』(中川海二)。作者は『ROUTE END』の中川海二さんで、もう沼に引きずり込まれるような作品です。描き方が本当に静かなので、一見すると淡々と捜査をしていく物語ですが、少しずつ手がかりや不可解なことが見えてきて、そして人間の異常性みたいなものがじわじわと明らかになっていく。今ちょうどクライマックスに向かっているので、ぜひ一気読みして最新話まで追いついてください。

三村編集長のおすすめ3作品がお得に読める!

4月25日(火)から『め組の大吾』『すだちの魔王城』を「月マガ基地」で無料話拡大、『DYS CASCADE』はTwitterにて2話の途中までツリー投稿される。この機会におすすめ作品を楽しもう。

月刊少年マガジン:https://gmaga.co/
月マガ基地:https://getsumagakichi.com/

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