『ましろのおと』主人公・澤村雪はなぜ人を惹きつけるのか 津軽三味線を通して見える魅力を考察

 「月刊少年マガジン」で連載中の羅川真里茂『ましろのおと』。題材は、津軽三味線。現在29巻まで発売されており、2012年には第36回講談社漫画賞少年部門、第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門にて優秀賞を受賞している。

 主人公は津軽三味線奏者の澤村雪。三味線の師匠でもある祖父の澤村松吾郎が亡くなったことをきっかけに、青森の実家を飛び出して上京。さまざまな人との出会いの中で、新しい音に触れ、自分自身の音を探し続ける。

 朴訥としていて、一見なにを考えているのか分からないような雪。しかし、自然と人の心を惹きつけるものがある。本項では、そんな澤村雪の魅力について考察していきたい。

直感で動く野性味

 物語のスタート時点から、雪は自由だ。祖父が死に、半ば衝動的に実家を飛び出してそのまま東京へ。住む場所どころか、行くあてもない。結果、偶然知り合った女性·立樹ユナに面倒を見てもらうことになる。

 その後は母・梅子が手配をした下宿先で暮らす。強引に転校先も決められる。芯がしっかりしているようでいて、なりゆき任せなところがある。

 しかし、人との出会いの運はあるのかもしれない。ユナも、下宿先の大家も親切だ。転校先で入った津軽三味線愛好会で衝突はあるものの、結果的には友情を育んでいくことになる。雪は間もなく高校を退学してしまうが、津軽三味線愛好会のメンバーとの交流が続いている。

 雪はなりゆき任せでも、直感で進むべき正しい道をかぎ分けているのかもしれない。

安定しない演奏に見える、未完成の輝き

 雪には才能がある。津軽三味線が好きだから、努力も練習も怠らない。でも、目的がないと弾けない。誰のために弾いているのか、何のために弾いているのか、自分の中で明確にならないと弾けなくなる。

 全25巻あるが、雪が絶好調なときはごく短い時間のようにも思う。ただ、雪は大人びて見えてもまだ10代だ。何も知らなかった青森での生活から一変。東京は刺激的な場所でもあるし、自分よりも上手い奏者もたくさんいる。その中で少しずつこれまで持っていなかった欲が芽生えてくる。欲を満たすために弾けば安定するのではないか?と思うが、雪にとって「欲」の自覚は新鮮で、知らないものだ。「欲」を持て余し、迷う。

 動揺して演奏を見失うこともあるし、無自覚のうちに恋をして音が良くなることもある。その動きは若さが感じられ、同時に人間らしい。

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