「月刊少年マガジン」編集長インタビュー「“らしさ”は編集長でなく連載陣がつくるもの」

「月マガ」編集長インタビュー

どうしたら“信じている状態”をつくれるか


――2021年、「月刊少年マガジン」編集長に就任されてから約2年が経ちました。編集者から編集長になって感じた変化はありますか?

三村:考える内容でしょうか。編集者の頃は、極論を言ってしまえば読者と作家さんと自分だけの世界でやっていて、雑誌や会社のことを考えたことがなかった。でも編集長になったら、当然のことながら雑誌や会社はもちろん、他の編集部員のことも考えなければいけないんです。

 あと、漫画をつくる上で一番大切なことは、関わっている人たちがその作品の世界をとにかく魅力的だと思っている、あるいは本気で面白いと思っている……そういった、いかに“信じている状態”を生み出せるか、だと思うんです。その先には、もっと良くするためにはどうしたらいいのかと、試行錯誤を繰り返す作業があって、結果的にどんどん面白さが加算されていく。だから、編集部員たちと一緒に“信じている状態”をつくって最大化させるために必要なものは何だろうと、編集長になってからずっと考えています。

――編集長として喜びを感じるのは、どんな瞬間でしょうか。

三村:そもそも「月刊少年マガジン」は、長期連載のベテラン作家さんたちの力量や熱量がすごい。そんな長期連載陣が今の「月刊少年マガジン」をつくり上げてきたし、本誌の強みでもあるのですが、雑誌に限らず媒体って常に新しい驚きを要求されているんです。

 今、「月刊少年マガジン」はまさにその新しい驚きを生み出そうとしている過渡期で、今年に入ってから新連載のスタートが続いています。もはや雑誌が分厚くなりすぎて大丈夫かな、というほど新連載が始動していますが(笑)。その作品たちが至るところで何か爆発しているような……そんな雑誌になってきている途中。おそらく、編集長としての喜びというか、“最高の面白さ”みたいなものをもうすぐ体験するんだろうなと感じています。

誌面の“らしさ”は、編集長でなく連載陣がつくる

――新連載が続々と投入されることで誌面のカラーも変わっていくと思いますが、誌面づくりにおいて大切にしている“らしさ”はありますか?

三村:らしさ……。これは僕の頭の中にはない発想なんです。なぜなら、今の“月マガらしさ”って僕ではなくて連載陣がつくってきたものだと思うから。歴史を辿れば、昔の「月刊少年マガジン」はお色気漫画が多くて、でも80年代後半に『修羅の門』(川原正敏)のような本格格闘漫画が登場した時に誌面の雰囲気が変わっていったんです。

 その後は『BECK』(ハロルド作石)に始まり、『四月は君の嘘』(新川直司)や『ボールルームへようこそ』(竹内友)のように、夢中になれる何かと出会う瞬間にフォーカスした青春漫画や、『ノラガミ』のようなヒット作が誕生して……いくつもの転換点、新しい流れがあって今の月マガなんです。だから、“月マガらしさ”は僕が決めることではないなと。らしさに囚われ過ぎてしまうと、新しいことに対応できなくなってしまう恐れもありますし。

――なんだか漫画雑誌って街というか、生き物のようですね。

三村:そうですね、まさに生き物なんです。人間だって日々細胞が入れ替わり、何年かの周期で新しい自分に生まれ変わっていると言いますし。どんな作品だって終わりがきますし、その度に新しい作品が始まる。そうやって蘇生を繰り返して続いていくのが漫画雑誌だと思います。

 ただ、自分自身としては、人に届く漫画をつくっていく、人をしっかりと描く……という姿勢は大切にしていきたいと思っています。「月刊少年マガジン」も同じような姿勢で続いてきた雑誌だと感じているので。

漫画雑誌をめぐる状況と課題感とは

――漫画雑誌をめぐる現状と課題についてもお伺いできればと思います。先日「イブニング」休刊のニュースが大きな話題となりましたが、今後漫画雑誌はどうなっていくと考えていますか?

三村:おそらく漫画雑誌はなくなるでしょう。もちろん、LP盤と同じように完全に消えることはなくて、何かしらの形で残るとは思いますが。

――そう実感した決定的な出来事があったのでしょうか。

三村:若者が読まないからというのもありますが、やっぱり僕自身も漫画を読む時にアプリや電子書籍を利用することが増えてきましたし。自分ですら紙を利用しなくなってきているんだから、そりゃなくなるよなと。でも、LP盤がCD、そして配信へと変化しても音楽自体はなくならないように、決して漫画が消失するわけではない。だから、漫画雑誌がなくなること自体は課題ではないんです。

――本当の課題とは何なのでしょうか。

三村:影響力のある漫画を生み出し続けられるのか、ということです。これができているならば、媒体の形が紙からWEBへとどんなに変化しても読んでもらえるはずなんです。今後はこの点が課題というか、競争になっていくと思います。

――紙とWEBでは漫画の在り方や表現など、いろいろと異なる部分もあるかと思いますが、その点はどのように考えていますか?

三村:もちろん異なる部分はありますが、根っこの部分ではあまり変わらないと思っています。例えば、WEB漫画の読者は課金意識が低い、作品数が多すぎて目に留まらないことが多い、だから面白いセリフや拡散されるようなシーンを多くつくれとか……よく言われます。そうしないとWEB漫画は読者からしっかり読んでもらえないって。

 でも、逆に紙ならしっかり読んでもらえるのか? 果たして、紙なら面白いセリフや拡散されるようなシーンが少なくても読者は読み続けてくれて、単行本も購入してくれるのかと。絶対にそうはならないですよね。だから、根本的なところは紙とWEBであまり違いがないと感じています。

――それでは、紙とWEBで異なると感じるのはどんな点でしょうか。

三村:WEBの方が圧倒的に引きの強さを要求されているなと思います。だから、エログロ、サスペンス系の話が多いのかなと。あと、紙の方はキャラクターに対する愛で動いていく感じがあります。そもそも漫画って、読者と一緒にキャラクターが育っていくみたいな、一緒に成長するニュアンスがあった気がするんです。

 対してWEBは、キャラクターの印象が薄くてもひたすら面白いこと、驚くことが起きていくという印象が強いです。もちろん「少年ジャンプ+」さんのように、WEB(アプリ)だけれど、キャラクターに対する愛というか、一緒にキャラクターが育っていく感をうまくやっていらっしゃる媒体さんもいますけど。

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