武田綾乃 × 文学YouTuberのベルが「青春と文学」を語る 本マッチング「チャプターズ」イベントレポ

武田綾乃 × 文学YouTuberベル対談

 「本屋で手が触れ合うような、偶然の出会い」を演出する「本を介したマッチングアプリ」チャプターズ。3月25日に武田綾乃氏の『青い春を数えて』をテーマとしたリアルイベントが開催され、著者の武田氏と文学YouTuberのベル氏が作品について語り合った。チャプターズ代表の森本萌乃氏をモデレーターにした当日の様子をレポートする。(藤井みさ) 

「なんで自分のことが書いてあるの、怖い」と言われるのがうれしい

森本萌乃(以下、森本):お二人はもともと親交があったとお聞きしているんですが、出会いのきっかけはなんだったんでしょうか。 

ベル:私の動画の企画で「編集者体験をする」という回があったんですが、その時にお世話になった編集さんが武田さんの担当編集者でした。それでその編集さんが「新刊が出ましたので」とプレゼントしてくれたのが『青い春を数えて』。読んでみたら、「これはもう今年1番だ!」というぐらい面白かったんです。 

 それでそのあと、「会いたい作家さんに会う」という企画で実際にお会いさせていただきました。4年前の2019年3月22日が始まりですね。 

武田綾乃(以下、武田):もう4年前、あっという間ですね。 

森本:武田さんがこの作品を書いたきっかけや思いについて教えてください。 

武田:もともとこの1話目の「白線と一歩」は、私がデビューしたての時に「小説現代」さんで青春小説特集を組むからと依頼があって書いたものなんです。この時は部活がテーマとして与えられていたので、なんの部活にしようか考えて……高校の時、友達が放送部だったんですけど、「放送部って何をやってるんだろう」と思ってはいたもののあまり知らなくて。詳しく取材させてもらって書きました。その後、この話を軸に本を書きましょうというお話をいただいて、残りの話はそこから考えていきました。 

森本:『青い春を数えて』の中には5つのお話がありますが、最初はまったくつながりも考えていなかったんですか。 

武田:そうなんです。「白線と一歩」だけ細かく取材させてもらって、あとはもう「想像する高校生像」を、自分の高校時代を思い出しながら書きました。 

森本:本当に、心の機微がすごく繊細に描かれているので、かなり綿密に取材されているのかと思っていました。 

武田:読者の方から「なんで私のことが書いてあるのか、怖くなりました」という感想をいただいたのはうれしかったですね。「怖い」と言われて嬉しくなるのは、作家ならではだと思います(笑)。「刺さった」「なんでこんなに分かってるの」と言われると、書き込んでよかったなと思いますね。 

森本:ベルさんは言われてうれしい反応はありますか。 

ベル:やっぱり「動画がきっかけで本を読むようになりました」「読書の楽しさが伝わりました」という感想をいただけると、うれしいですね。 

森本:やっぱり楽しさが伝わると、やってよかった! って思いますよね。 

高校生の立場でなくても刺さる言葉たち

森本:お二人は、どんな高校生だったんですか。 

ベル:私は女子校で帰宅部でした。『青い春を数えて』の登場人物だったら、ルックスや雰囲気でいえば、泉ちゃんみたいな子でしたね。ショートカットで背も高かったので、バレンタインのときはみんなからお菓子をもらえて、ホワイトデーにお返しするような楽なポジションにいました。あと、全然本名は関係ないんですけど「トミーっぽいから」っていう理由で「トミー」っていうニックネームで呼ばれてました(笑)。 

武田:私の学校の空手部は全国優勝するような強豪校でした。やったことがないことをやりたくて、高校入学と同時に空手部に入部してみたんです。でも朝5時に起きて走り込みをする朝練が厳しすぎて「私には無理だ」と思って1週間でやめて、文芸部に入部して小説を書き始めました。 

ベル:『青い春を数えて』にも文化系の部活や帰宅部の子が多く出てきますよね。 

武田:私の記憶から書いているからだと思います。あとは勉強が嫌いだったので、勉強の悩みはけっこうありました。いまだに締切がやばいときは、「まったく勉強してないのに明日センター試験だ!」という夢を見ます。追い詰められてるんでしょうね。 

森本:『青い春を数えて』の中でそれぞれお気に入りの一節はありますか。 

武田:『漠然と五体』の2人が味のある喫茶店でカレーを食べるシーンが気に入っています。特に「これ、ハムカツじゃん!」のくだりは、自分で書きながら「天才じゃん!」と思ってました(笑)。これは友達と味のあるサービスエリアに行って、「こういうところで出てくる物は絶対にうまい」と友達が言うのでカレーを頼んだら、レトルトだった……というエピソードが下敷きになってます。 

ベル:私も『漠然と五体』の「正論じゃ、君を救えない」という一節が好きですね。友達と話している時にもこの言葉を思い出して。「正論じゃ人を救えない時もあるもんね」みたいに話してます。 

武田:高校生って、正論にあこがれるみたいな時期があって、どうしても人を論破したくなっちゃうんですよね。でもやっぱり人間のコミュニケーションとしては、正論だけでは人は動かないですよ。 

ベル:長い目で見ると正論を吐いたことがあとで自分が損になる立ち回りをしていることもあって、怖さもありますよね。正論を言うことで自分を縛ってしまうこともあるから。 

武田:未来で返ってきちゃうんですよね。10年後、20年後を考えたときに、正論だけで生きていくとしんどいんじゃないかなと思います。 

ベル:自分が高校生の立場じゃなくても刺さるなってあらためて読んで思いました。

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