武田綾乃 × 文学YouTuberのベルが「青春と文学」を語る 本マッチング「チャプターズ」イベントレポ

武田綾乃 × 文学YouTuberベル対談

大人になってから感じる青春の日々の思い

武田:ありがとうございます。いまあらためて読み返すと、いっぱい思い出しますね。この頃、『銀河鉄道の夜』が好きだったので、たびたび出てきますし。5話に出てくる「きれいと怖いは似てるって知ってたのに」という一節も気に入ってますね。 

 あとは4話の『作戦と四角』で「眼鏡教」を出したんですけどこれも結構気に入ってます。なんでこんなに眼鏡について熱くなってるんだろう? と(笑)。「もしもタイムマシーンが作られたなら、私は絶対にコンタクトレンズを発明した人間を暗殺してやる!」なんて、リアルに高校生っぽくて気に入ってます。 

ベル:私は3話の『側転と三夏』の、お姉ちゃんがちゃんと主人公の側転を見ててくれたというところを読むと絶対泣いちゃいますね。なんでもそつなくこなす優等生だけど、もやもやを抱えている妹のことをちゃんと見ててくれたんだ! というところが、すべて救われた感じになるなと思ってます。これは高校の教科書にも載ってるんですよね。 

武田:そうなんです。 

ベル:優等生であるがゆえの葛藤から、あのシーンで開放されるなと。しかももやもやの対象そのものから見ててもらった、というところがいつもグッときちゃいますね。 

森本:私は5話目の「背伸びをした少女の美しさ」という表現にすごく共感しました。自分がすごく背伸びをしてた高校生で、どっちかというと悪い子だったと思うんですけど、それを「美しい」と言ってもらえることに勝手に救われた気分になりました。武田さんの作品を読むと、「自分もこうだったかもしれない」という考えになれて、あのときの気持ちを言語化して肯定してもらっている気に勝手になっています。 

ベル:過去を変えられるというか。今それを言ってもらえる、というのがすごくいいですよね。 

無敵感と背伸び、ギャルへのあこがれ

ベル:武田さんの描くギャルって、改めていいですよね。

森本:先ほど楽屋でも話が盛り上がりましたね!武田綾乃のギャルがいいって(笑)。

武田:力強い女の子が好きで。10代のとんでもない無敵感というか、強い女の子を書くのが好きですね。自分は全然ギャルじゃなかったので、あこがれもあると思います。でもギャルの子達も本当に自信があるわけじゃなくて、背伸びしたり、見せたい自分に近づけるようにしようとしている子なんだと思っているので、そのことを書いていますね。 

森本:お二人は自分が高校生に戻れるとしたら、どうなりたいですか。 

武田:WBCを見ててにわか炸裂なんですけど、野球部のマネージャーをやってみたいって思いました。マネージャーというか、人を支える役割を今高校生に戻れるならやってみたいですね。 

ベル:私はすごく規律の厳しい高校に通っていたので、私服OK、メイクも問題ない、みたいな高校生活を一回やってみたかったですね。私の高校はマフラーの巻き方まで指定されてたんですよ。髪型を注意されるのが嫌でショートにしてたみたいなところもあるので……。それこそYouTube活動してもいいよ、ぐらいの学校だったらどんな人になってたのかな? って気になりますね。 

武田:私の学校はかなり校則もゆるくて、みんな結構自由でしたね。放課後にはマックに寄ったりしてましたし。 

ベル:私は寄り道も禁止でした。唯一本屋だけはOKということになっていたので、本屋が入ってるショッピングモールだったら寄ってもいいじゃん、と思ってそこに行ったりはしてましたが(笑)。 

春におすすめの本は…… 

森本:最後にお二人が今読んでいる本、それから最近読んでおすすめの本をぜひお聞きしたいです。 

武田:私はいまシャーリイ・ジャクスンの『くじ』という短編集を読んでいます。432ページに22編も入ってるんですよ。一編が星新一さんのショートショートくらいの長さで、人間の嫌なところを見せてくる話が多いんですよ。 

ベル:そういう意地悪系の話好きですよね。 

武田:テンションが低いときにぴったりです(笑)。 
 
ベル:私は今年1月に芥川賞を受賞した伊戸川射子さんの『この世の喜びよ』を読んでいます。あとこの時期におすすめの本というと、加藤シゲアキさんの『オルタネート』を推したいです。 

武田:『オルタネート』めちゃくちゃ面白いですよね! 加藤さんの作品の中でも特に好きです。 

ベル:デビュー作『ピンクとグレー』とは全然雰囲気が違いましたね。高校生が主人公の青春群像劇で、いろんなタイプの登場人物が徐々に絡み合いながら最後は畳みかけていくという、青春感がいいなと。舞台は東京の私立の高校で、高校生限定のマッチングアプリが当たり前になっているという設定なんです。最初は「現代の闇」みたいなものを出してくるのかなと思っていたら、普遍的な青春期の葛藤や熱が詰まっている作品でした。『青い春を数えて』を読んで好きだったら、『オルタネート』も好きだと思います。 

武田:私は加藤さんとちょうど同じタイミングで吉川英治文学新人賞を受賞したこともあり読ませていただいたんですけど、すごく面白いです。作家としてすごいですし、青春小説として傑作だと思います。 

あと自分の本で恐縮なんですが、『世界が青くなったら』という作品があります。主人公は大学生で、彼氏が朝起きたらこの世界からいなくなっていて、なぜ彼氏が消えたのかを痕跡を探しながら謎を追いかけていく、という作品です。 

ベル:この作品は、武田さんが恋愛を真正面から描いているのも魅力だと思います! あと、とあるアンティークショップが出てくるんですけど、これが『耳をすませば』に出てくる地球屋みたいな雰囲気で描かれています。 

森本:お話を聞いて2冊ともとても気になってきました。ぜひ読ませていただきます!

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