羽柴秀吉の読み方は「ファシバフィデヨシ」だった? 世界一複雑な日本語の成り立ち
たとえば、使い分けを迷ってしまいがちな「じ/ぢ」と「ず/づ」。「四つ仮名」と呼ばれるこれらの仮名は、元は発音も違っていたという。鎌倉時代まで「ヂ」は「ディ」、「ヅ」は「ドゥ」に近かったのが、室町時代中期には区別が曖昧となる。それでも軽い鼻音の違いは残っていたものの、元禄時代(17世紀終わり)頃には「ぢ」は「じ」、「づ」は「ず」と同じ発音に落ち着いたことが本書で証明されていく。
こうした知識を得ていく中で実感させられるのが、著者曰く世界に類を見ないという日本語の複雑な成り立ちだ。日本語で一つの漢字に音読み訓読み、複数の読み方が存在している理由。それは中国漢字の古音「呉音」(3~6世紀)・「漢音」(6~8世紀)・「唐音」(13世紀)が、日本に取り入れられるたび、文字の読みが入れ替わるのではなく増えていったから。こんな重層構造は当の中国をはじめ、他の漢字文化圏の国では存在しないらしい。平仮名を覚えるのに欠かせない五十音図は、実はインドにルーツがある。古代インド語の音声を学んだ平安時代の僧が、発音の仕方を「a i u e o~」とインド由来の順序で記述したのが起源となっているのだ。
こうして海外の言語文化を取り込みながら発展を遂げた先に、本書で文例として挙げられている「知っておきたい新型コロナワクチン接種の基礎知識Q&A」「決算特価 最大15%OFF! お値打ち品がドッサリ満載!」のような、ごった煮感に溢れる現代の文字の並びがある。今後日本語の発音がさらに変わるとしたら、自然発生的になのか、外国語や新たな文化からの影響によるのだろうか。発音の歴史を辿った後は、発音の未来にも興味が湧いてくる。