『ガンダムZZ』第七話に見た『F91』の原型 コスモ貴族主義につながる“騎士道精神”の欺瞞を読む

『ガンダムZZ』第七話レビュー

 多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。

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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第七話 ガザの嵐

[あらすじ]
 アーガマとZガンダムに業を煮やしたマシュマーは、ついにシャングリラコロニー内部にエンドラを侵入させ、主砲を使った直接攻撃を命じる。しかし、エンドラのモビルスーツパイロットであるパンパ・リダは仲間の仇討ちのため、自分達にZガンダムを討伐させてほしいと涙ながらに訴える。その姿に感銘を受けたマシュマーは、今一度モビルスーツ部隊にアーガマとZガンダムの追撃を任せる。

 一方、シャングリラ内のジャンク置き場では、以前Zガンダムに敗北したゲモン・バジャックがアーガマを双眼鏡で探していた。そこにアーガマ脱出のため工業用ハッチを開けてもらうべく、ハッチを管理するジャンク屋の組合に会いにきたジュドーたちが通りかかる。ジュドーたちは、追いかけてきたゲモンはら逃げることに。しかしクムが途中で転んでしまい、ジュドーはゲモンに捕まってしまう。

 エンドラからは、3機のガザDから成るガザの嵐隊が出撃していた。正々堂々と戦うことを誓い、空中にバラの花を描いてアーガマの元へ飛んでいくガザの嵐隊。そのころアーガマでは食料品などの補給の最中だった。クルーが鶏や豚を詰め込む中でアーガマは敵機の来襲を探知し、ファがZガンダムで、モビルスーツ戦には不慣れなトーレスがメタスで出撃することになる。

 ファとトーレスはコロニー内部でガザの嵐隊と接触。2人は息のあった攻撃に追い詰められ、さらに残った1機のガザDに乗ったパンパはコロニーの住人に向けてアジ演説を開始。激怒したブライトはアーガマをコロニー内部に向けて発進させ、2機を支援する。ビーチャによるアーガマからの発砲によって激怒したパンパは、コロニーの被害を気にせず攻撃を加えることを決断する。

 一方、ジュドーたちは「ラビアンローズのルカ」と名乗る少女がゲモンを殴って気絶させたことで、窮地を救われていた。小型戦闘機コアファイターに乗ったルカはガザDと交戦するZガンダムとメタスを発見。2機の離脱を支援する。さらに現場に駆けつけたジュドーはガザDにトレーラーをぶつけ、Zガンダムの操縦を交代する。

 アーガマの支援も受けつつ、ガザの嵐隊と戦うZガンダムとコアファイター。煙幕を使うガザストームフォーメーションによって敵味方の位置がわからなくなり、ガザの嵐隊は闇雲に攻撃を加える。しかしコロニー外壁に穴を開けるという奇策でルカが煙幕を晴らし、ジュドーは3機のガザDを立て続けに撃破する。

 ルカとジュドーは機体に搭載されていた粘着剤で外壁の穴を塞ぎ、アーガマへと帰投する。ラビアンローズからの連絡を正式にブライトに伝えるルカ。一方で、気を失ったゲモンの元には、姿を消していたヤザンが現れる。

 戦闘場面において見せ場の多かった第七話。富野監督が関わったガンダムシリーズでは敵味方の勝利条件とは別に「ここをクリアできないと敵味方問わず大惨事になる」という条件が設定されていることが多い(例えば「大気圏への突入に通常のモビルスーツは耐えられないので、ある程度以上の高度のうちに戦闘を終えなくてはならない」など)。この第七話に関して言えば、「シャングリラコロニーを破壊してしまうと、コロニー内の住民が全滅する」という条件がそれだ。

 連邦側の勢力であるアーガマからすれば、コロニーへの壊滅的被害はそもそも避けなくてはならないものである。一方でマシュマーらエンドラ側の狙いもコロニーの破壊ではなく、あくまでシャングリラの住民たちを自分たちの味方につけることである。「コロニーを壊滅させては元も子もない」というのは両者に共通した前提条件であり、そうであるからこそマシュマーは全面的にアーガマへと攻撃を仕掛けることができなかった。

 しかし、今回のマシュマーは完全に業を煮やしている。コロニーに一定の被害が出るとしてもそれはジャンクヤードをこそこそ逃げ回るアーガマのせいであり、ストーリー開始当初はエンドラの主砲によるアーガマへの直接攻撃を企てていた。コロニーの内部で大型艦同士の戦闘を展開するつもりだったわけで、コロニーの住人からすればとんだとばっちりである。

 そこをギリギリのところで止めたのが、どうやらマシュマー以外のエンドラのクルーにもインストールされていた騎士道精神である。パイロットとしての誇りにかけて正々堂々と仲間の仇を討ち、武力ではなく理念でコロニーの住人を屈服させる……。パンパらエンドラのパイロットが目指したのは、そんな勝利のシナリオである。

 パンパたちは当初「後ろから敵を撃つのは卑怯だ」とトーレスの乗ったメタスを後方から攻撃することすら控えるのだが、作戦の失敗を受けてなし崩し的に武器を乱射、コロニー内への被害を考えない攻撃をかけてくる。物語上では悪役なのでこういう行動をとった……とは考えられるのだが、この「高貴な理想を抱えたエリートたちが、結局コロニー内でなし崩し的に無茶苦茶な戦法を取る」という点は、『ZZ』の5年後に公開された『機動戦士ガンダムF91』へと受け継がれているように思う。

 『F91』で悪役となったクロスボーン・バンガードは、「コスモ貴族主義」という思想を持った集団である。コスモ貴族主義とは、簡単に書けば「高貴な人間が重責を負う」というノブリス・オブリージュ的思想をベースとしつつ、既得権益を排除した階級制度社会を理想とし、その障害となる地球連邦政府を打倒することを目指す考え方だ。優れた資質を持つ(とされる)少数の特権階級がその他大勢を支配する社会を目指すが、その社会の成立・維持のためには人類の粛清すら辞さないという残虐さも秘めている。

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