『対岸のメル』『テトテトテ』『女性に風俗って必要ですか?』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 2月のおすすめ新刊漫画

 今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?

『対岸のメル 幽冥探偵調査ファイル』福島聡

 少年少女たちが力を合わせて怪奇現象に立ち向かう......そんな映画「学校の階段」や「IT/イット」で描かれるような“心霊ジュブナイル”がお好きな方には刺さるであろう本作。

 主な登場人物は死者や人外の声が聴こえる少女・メル、そして頭脳明晰な少年・ワキヤ。ひょんなことから、小学校の登校中に遭遇した地縛霊の無念を晴らして成仏へと導いた2人。それ以来「幽霊専門の探偵」として活動を始める。幽霊というダークな雰囲気漂う作品だが、天真爛漫なメルと、頭脳明晰ながらも子ども特有の純粋さが残るワキヤによって、作中は怖さよりも秘密の冒険・共有者のような高揚感に満ち溢れている。

 だが、幽霊との対話を重ねるうちに明らかになっていく亡者たちの哀しく切ない生前の物語は、そんな気持ちの高まりを掻き消す。生と死の境目、危うさを痛感させられるその瞬間は、メルとワキヤさえも陰りのある表情を見せる。今まで感じたことのない心の機微や人の闇に戸惑う2人だが、決して目を背けることなく、自分たちなりに消化して亡者たちを成仏へと導いていく。その姿からは、まさに“心霊ジュブナイル”の醍醐味とも言える少年少女の成長を感じる。

 交通事故で命を落とした人、メルが幼い頃に亡くなった父親、惨殺事件で無念の死を遂げた少年......物語が進むにつれて、亡霊たちが抱える物語の重さはもちろん、複数の謎が交錯していくミステリー展開も見どころの一つ。メルとワキヤの“幽冥探偵調査ファイル”から紡がれる成長ストーリーから目が離せない。

『テトテトテ』池谷理香子

 インターネットやスマホの普及によって、いつでもどこでも繋がれてしまう時代。だからこそ、孤独であることの素晴らしさや尊さを説く流れさえあるのに.....“特定の人物と毎日会って握手しないと死ぬ”という本作の過激な設定には度肝を抜かれた。

 ーーある日、偶然同じ横断歩道で同時にトラックにはねられてしまった、藍、健太、睦美の3人。次の瞬間、3人は夢の中のような空間に転移し、宙に浮いた謎の拡声器によって「ゲームの開始」を言い渡される。そして、藍が引いた謎のクジによって“君たちはこれから毎日会って握手をする、守れなければ死ぬ”というルールを課せられてしまう。

 ゲームの正体はもちろん、拡声器の正体も不明。このままでは、一生毎日握手をし続けることになる3人だが、この数奇な巡り合わせによって藍は良くも悪くも自身のトラウマと対峙し、さらにはこの3人の中で一番社交性のあった睦美が予想外の展開に見舞われるなど、各々の人生が動き出していく。

 無理に人と繋がらなくても良いのだと孤独を肯定してくれる今の時代の流れは、個人的にも大変ありがたい。けれど、突如繋がることを強要された藍、健太、睦美、そしてそこから生まれる3人の物語からは、人と繋がることでしか得られない感情、人生の広がりがあるのだと“繋がりの再定義と可能性”を感じた。特に、藍は特に今までひと付き合いを避けてきたというキャラクターだ。そんな彼女が赤の他人の2人と繋がることでどう変化していくのか、今から次巻が待ち遠しい。

『女性に風俗って必要ですか?~アラサー独女の再就職先が女性向け風俗店の裏方だった件~』吉岡その / ヤチナツ

 ここ最近、店舗数や利用者が増えているとよく耳にする女性用風俗。本作は、その知られざる裏側を“お店の裏方として働く女性”の目線で描いたコミックエッセイだ。

 予約方法からコース内容、そして男性セラピストが行う技能講習など、原案・吉岡その先生の実体験をベースに描かれる女性用風俗のリアル。そこには、未知の業界についての知識を得る“お仕事漫画”としての面白さがある。

 そして、一番印象的だったのは女性客が女性用風俗を利用する理由。例えば、作中に登場する女性客は、性体験の無さに劣等感を覚えている人、夫婦間のセックスレスに悩む人など、多様な性的コンプレックスを抱えている。そのコンプレックスを解放するのが女性用風俗であり、男性セラピストだ。つまり、女性用風俗とは性欲を満たすだけではなく、性の呪縛から解き放してくれる……ある種「救い」のような存在でもあるのだ。

 女性にとっての性の悩みや不満。それらを口に出し他者に助けを求めるのはどこか憚れるものがあった。けれど、昨今の多様性を尊重する流れによって、女性の性欲への抑圧、偏見も徐々に緩和されているように思う。そんな世相を反映させ、性に悩む女性たちの背中を押してくれるような作品だった。

 『黄泉のツガイ(3)』荒川弘

 『鋼の錬金術師』や『銀の匙』でお馴染み、荒川弘先生の最新作『黄泉のツガイ』。“ツガイ使い”と呼ばれる異能力者たちが織りなすバトルファンタジーだが、作中には現代社会から隔絶された謎の村、世界を統べる力を持つ双子の存在、妖怪やUMAなどが登場するので“伝奇モノ好き”の心をくすぐる内容となっている。

 物語が進むたびに誰が敵で味方なのかわからないという不穏な空気が蔓延していくが、その中で一点の曇りなく輝くのが主人公のユル。3巻で彼は、双子の妹・アサの悲しき過去や自分達の宿命を知ることになるが、悪は絶対に許さない!相手がどんなに強くてもガンガンいこうぜ!.......と痺れるくらいストレートで力強いユルの心意気に胸を打たれる。漫画の数だけ多様かつ魅力的な主人公が存在するが、どこまでも漢気全開、血気盛んなユルを見ていると「これぞ少年漫画の主人公!」と拍手を送りたくなってしまう。

『喰う寝るふたり 住むふたり 続(4)』日暮キノコ

 累計200万部突破の『喰う寝るふたり 住むふたり』の続編。結婚5年目を迎え、35歳になったリツコとのんちゃんは、若い頃には考えもしなかった夫婦ならではのリアルな問題と向き合っていくことになる。

 例えば、20代の頃のようにはいかない体型維持、仕事での立ち位置、妊活問題、親との関係......リツコとのんちゃんは、年を重ねていくにつれて迫りくる“変化”の狭間で頭を悩ませていく。けれど、何があってもこの2人の関係性だけは絶対に変わらない。意見が対立しても、それによってすれ違ったとしても、リツコとのんちゃんが互いを慮り、対話を怠らない姿勢だけは前作からずっと消えない。

 年を重ねていくにつれて変わっていくもの、変わらないもの.......人生において誰もが一度は考えたことがあるであろうこのテーマ。変わる、変わらないのバランスを保ちながら、しなやかにご機嫌に生きていく2人の姿はとても理想的で、本作を読むたびに他人と人生を共に歩むことの尊さについて思いを馳せてしまう。最新刊4巻で、次巻が最終巻となることが明かされた本作。リツコとのんちゃんの日常を最後まで温かく見守りたい。

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