『取るに足らない僕らの正義』『いやはや熱海くん』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 1月のおすすめ新刊漫画

ちゃんめい厳選! 2023年1月のおすすめ新刊漫画

 今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?

『取るに足らない僕らの正義』川野倫

 ある日突然、推しが姿を消した。そんな“推しの消失”をきっかけに繰り広げられる群像劇を描いた作品は、推し活という文化の隆盛に伴い年々増えているように思う。『取るに足らない僕らの正義』もまさに“推しの消失”から始まる物語だ。

 SNSを中心に活動を続けるシンガーソングライター・多野小夜子は、ある日突然何の前触れもなく姿を消す。そんな彼女を心の拠り所にしていた6人の男女。年齢も住む場所も、生き方も違う6人が、多野小夜子の消失をきっかけに翻弄されていく様子を描く。

 本編を通して付きまとうのは「多野小夜子とは何だったのか?」という問い。ある者にとっては“救い”で“神様”で、またある者にとっては自身の劣等感を刺激するような“畏れ”でもあった。多野小夜子の消失によって、6人が抱える苦悩や葛藤といった心の深淵、そして、それらの吐口にするかのように多野小夜子に依存、あるいは執着していた歪な構造が炙り出される。まるで、推しを巡る現代の寓話のような一冊だ。

『いやはや熱海くん』田沼朝

 ーー「好き」ってなんだろう。何をもって相手を「好きな人」だと定義するのだろうか。そんな恋愛における普遍的な問いを心地よい空気感と共に描いた本作。

 主人公は、学年イチの美形で毎日のように女生徒から告白される熱海くん。でも、当の本人は男の人が好きで、おまけにとんでもなく惚れっぽい。“男の人が好き”という熱海くんのキャラクター性からBL作品のイメージが先行しがちだが、誰が好きなのかという恋愛対象の話よりも、好きに至るまでの感情、そこに立ちはだかる葛藤や揺れる想い......そんな「好き」という感情の緻密な描写に心揺さぶられる。

 例えば、熱海くんは常に女生徒から告白されているが、なぜ彼女たちは自分に好意を寄せているのかと疑問を感じてしまう。自分に向けられた「好き」をうまく消化できていないからか、反対に今気になっている足立先輩を好きな理由も尋ねられても「読書中に話しかけても嫌な顔をしないから」などと、自分でも首を傾げてしまう話しか出てこない。

 果たして人を好きになることとは、この感情の正体は何なのか?......足立先輩を始めとする同級生たちとの交流、そしてゆるっとした会話劇によって段々と解像度が上がっていく熱海くんの「好き」から目が離せない。

『赤羽骨子のボディガード』丹月正光

 連載作品の約半分をラブコメが占める「週刊少年マガジン」。数あるラブコメ連載作品の中でも個人的に今一番注目しているのが『赤羽骨子のボディガード』だ。

 クラスメイトで幼馴染の赤羽骨子が、ヤクザの跡目争いに巻き込まれ、殺し屋から命を狙われていることを知った威吹荒邦。ひょんなことから「赤羽に知られることなく1年間守り抜き、無事に高校を卒業させること」というミッションを仰せつかった荒邦は、“絶対にバレてはいけない”秘密のボディガード学園生活に身を投じていく。

 このバレる・バレないの攻防戦によって生まれる、焦ったいドキドキ感はラブコメの醍醐味そのものだが、注目すべきは美麗な筆致によって描かれる戦闘シーン。荒邦を始めとする“赤羽骨子のボディガードたち”が繰り広げる戦いは、勢いと迫力に満ちていて、ページをめくる手にも熱が入る。ラブコメだけにとどまらない、大迫力の学園アクション『赤羽骨子のボディガード』をお見逃しなく。

『サンダー3(2)』池田祐輝

 「漫画ってこんなことができるのか!」と、昨年一番驚き、衝撃を食らった作品の最新刊。

 ひょんなことから異世界に転移してしまった中学生3人組とその妹。そこで何者かによって連れ去られてしまった妹を取り戻すべく、3人は“スモール3”と名乗り異世界で奮闘するが、なんとその世界では異星人による侵略が始まり......というのが『サンダー3』のあらすじだ。そんな本作の何が衝撃的だったかというと、中学生3人組とその妹、転移した異世界の住人、その異世界を侵略しようとする異星人、それぞれの画風が大きく異なるからだ。

 各々の登場人物たちは、年齢や立場はもちろん、立ち向かう敵、それ以前に“画風”も違う。そんな何もかも違う登場人物たちが大集合の本作だが、唯一の共通点は「戦う」ことだ。妹を取り戻したいスモール3、異星人に家族を殺され復讐を誓う者たち、侵略と攻撃を続ける異星人.....目的は違えど戦うことで各登場人物たちが絶妙に交わっていく2巻。今後の展開が楽しみな作品だ。

『青野くんに触りたいから死にたい(10)』椎名うみ

 幽霊になってしまった恋人・青野くんと、その彼女の優里が織りなす一途な恋愛を描いたホラーロマンス『青野くんに触りたいから死にたい』。幽霊×純愛という異色の設定から始まる本作だが、物語が進むにつれて明らかになる幽霊や悪霊といった異形の存在、呪いや祟りなどの人間の心の闇......そんな様々な角度から読者の恐怖心を刺激していく。

 約1年ぶりとなる待望の最新刊10巻は、発売日当日に椎名うみ先生がTwitterで「望まない悲しみを渡してしまってすごく申し訳ないです」というほどに衝撃的な展開で話題を呼んだ。

 正直、10巻を読んでいる最中はとんでもなく辛かった。けれど、読まずにはいられなかった。なぜなら、今巻のエピソードが『青野くんに触りたいから死にたい』でずっと恐れられてきた“呪い”の核に迫る内容であったこと、そしてその正体や根っこの部分にあるのは完全なる悪ではなく、むしろ誰もが抱くであろう孤独や苦悩によって生まれたものなのだと.......。描かれるエピソードは目を背けたくなるような悲劇ではあったものの、そこに少なからず自分や周りの人物を重ねてしまい、読後は怖さ、辛さよりも“哀しさ”でたまらなく涙がでた。

 巡り巡って青野くん、そして優里に永遠に付きまとう“呪い”。どうかみんなが健やかに、幸せに......そんな未来を願ってやまない。

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