アンジェリーナ1/3「人を思いやる気持ちを忘れちゃいけない」 乾ルカ『コイコワレ』を読んで

アンジェリーナ1/3が読む『コイコワレ』

 リツと清子は、理由もわからないまま憎しみ合うけど、周りの人の言葉によって自分の行動を変えて、少しずつ理解し合おうとする。『コイコワレ』を読んでいると、「純粋な感情って、何よりも強いな」と感じますが、一方で、もしかしたら彼女たちは誰よりも大人だったのかもしれないとも思います。

 戦争中は同じ意見、同じ行動を強いられていたと聞きます。違う意見を持ったり、「この状態はおかしいんじゃないか」と言えば、当時は非国民と言われてしまう時代でした。リツと清子もそれに従っているけれど、大切な人が徴兵されたり、お母さんと離れないといけなかったり、いろいろな出来事を経験するなかで、“こんなのおかしい”という気持ちもあるんですよね。

 戦争は国と国の争い。その理由は複雑だけど、憎しみ合っているからこそ、お互いのことを理解しようと努めなければいけないと思うんです。リツと清子の間にも“小さな戦争”が起きてたけれど、二人は自分を律することで、何とか相手のことをわかろうとした。彼女たちの行動には私自身もすごく考えさせられたし、今までにない価値観への扉を開いてくれたと思います。

 主人公の二人だけじゃなくて、すべての登場人物の葛藤だったり、考え方の変化が丁寧に描かれているのも印象に残りました。『水底のスピカ』もそうだったんですけれど、「この子は自分と似てる」「この人のことはよくわからない」みたいに自分と重ねながら読めるんです。自分自身を俯瞰で見るきっかけにもなって、いろんなことに気づかせてくれる。それも乾ルカさんの作品の魅力だと思います。

 『コイコワレ』でいちばん感じたのは、すごくシンプルですけど、人を思いやる気持ちを忘れちゃいけないということ。どれだけ嫌いな相手であっても、そのことは覚えておきたいです。嫌いな人に対する意識って、どうしても強く、鋭くなりがちじゃないですか。「あの人、むかつく! どっか行ってくれないかな」って何度も思っちゃうし、そんなの時間の無駄だとわかっていても、そこに体力や時間を使っちゃうのが人間なのかもしれない。そんなことも考えました。

 バシッと言葉を叩きつけるような終わり方も最高でした。しかもちょっと意味深というか、明確な答えを出していないんです。それも価値観を押し付けない乾さんの作風なのかもしれません。きっと人によって読み方が違うだろうし、ほかの人が『コイコワレ』から何を受け取って、何を感じるのかにも興味があります。一つ言えるのは、清子とリツが純粋な気持ちのままでいてくれたことの素晴らしさ。それは私にとっても大きな救いでした。

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