姫乃たまが語る、失われたものを求めて気付いたこと 「今を大事にする生き方をしていきたい」

姫乃たまが語る、永遠なるものたち

30代は今を大事に

――たまさんが文章を書くようになったきっかけは。

姫乃:私は読み書きができるようになるのが早くて、逆にそれ以外のことーー算数とか運動は苦手だったから、自然と本好きになっていったんです。よく図書室に行って、手に取った本に気にいった文章があると、それを書き写していたりしました。森絵都さんの児童書が好きで、中学生くらいになると瀬尾まいこさんとか、島本理生さんの小説を好むようになりました。2004年に芥川賞を同時に受賞した綿谷りささんの『蹴りたい背中』と金原ひとみさんの『蛇にピアス』もすごく印象に残っています。特に金原ひとみさんの作品は大好きで、今も新刊が出ると買っています。

 習ったわけではないけれど、文章を書くこと自体は昔から好きでした。人に読ませる文章を書くようになったのは、16歳で地下アイドルの活動を始めてから。当時はブログを書くのが大事なアイドル活動のひとつだったので、アメブロを始めました。当時の地下アイドルのブログには、写真を多めに載せるとか、ファンの人に「どっちが好きですか?」と問いかけをするとか、行間を多めにして読みやすくするなど様々なセオリーがあったんですけれど、私はそれに慣れなくて、自分の書きやすいように書くことにしたんです。それで普通の文体で書き始めたところ、とあるエロ本の編集者の目に留まって、雑誌の片隅でコラムを書いたり、読者から届いた質問への回答をしたり、体験取材のルポを書いたりするようになりました。そのエロ本が廃刊となるときに、エロ本が斜陽産業であることや、その独特の文化についてブログに書いたところ、はてなブックマークですごく話題になって、いろんな出版社から声が掛かるようになりました。リアルサウンドにお声がけいただいたのも、その頃でしたね。

ーー『週刊金曜日』でアイドルをテーマにしたトークショーが開催されて、そこで初めてたまさんとお会いしました。たまさんと倉本さおりさんが司会をしていて、栗原裕一郎さん、さやわかさん、宗像明将さんなどが登壇していたイベントですね。

姫乃たま『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』

姫乃:そうそう、懐かしいです(笑)。もう10年近く前ですよね。それでリアルサウンドでも書くようになって、『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』に繋がりました。ちょうど大学を卒業するタイミングだったんですけれど、就職活動をせずに卒業しちゃったので、そのまま地下アイドルをしながらライターをするという生活になっていきました。KADOKAWAの『月刊コミックビーム』でインタビュー取材をしたり、地下アイドルのルポを実話誌に書いたりして、一時期は月に20本くらいの連載を担当していたと思います。すごく忙しかったけれど、仕事としてちゃんと成り立つようになりました。20代は地下アイドル兼ライターというスタイルでやってきましたが、今後は文章をメインにしていければと考えています。とはいえ、何を書いていくのかはまだ迷い中なのですが……。

ーー2021年末に刊行したZINE『ヘア・ヌード』では、短編小説も掲載していました。

姫乃:小説はちゃんと長編を書き上げてみたいです。担当編集者からは、まずは地下アイドルを題材にしたものが良いんじゃないかと言われていますが、もう卒業して4年くらい経つし、今のアイドル業界については書くのは難しいような気もしていて。今の私に書けるものはなにか、すごく悩んでいるところです。

――改めて20代を振り返って、どんな感想を抱いていますか?

姫乃:20代は本当によく働いたし、地下アイドルの活動も綺麗な形で卒業できたので、納得はしています。でも、過去のことに囚われたり、未来のことを不安がったりすることが多くて、それは勿体なかったです。もっと早く「今が一番いい時期なんだ」ということに気付くことができればよかったな。2月で30歳になるので、30代は今を大事にする生き方をしていきたいです。

――たまさんはずっと逃げずに自分と向き合ってきたし、やりたいことをちゃんと形にしてきた人ですから、30代はもっと軽やかにいろんなことを楽しめる大人になると思いますよ。素敵な30代になってください。

姫乃:そうだといいな、頑張ります!

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