「中村倫也」卓越した表現を生み出す方法「いろんな感覚を言語化しようとする意識は常にもっている」


 2018年に発売され話題となった中村倫也のフォトブック『童詩(わらべうた)』。それから約5年間の月日が経ち、中村倫也自身、役者としても大きく飛躍を遂げた中で登場したのが本作の「蓑唄」だ。重さは、なんと約1.3キロ、厚さ約2.5センチ。鈍器本を有に超えてしまうような大ボリュームの一冊はどのように制作され、生み出されたのか。中村倫也本人が語る、本作への思い。

「成長というよりブラッシュアップされてきたのがこの5年間」

――2018年からの5年間を振り返って、いかがですか。

当たり前だけど、『童詩』を刊行したときから歳をとっているし、役者としての立ち位置も変わってきたから、求められるものや与えられるものも5年前とは全然違う。無名の新人でもなければ、後輩らしく受け身でいることもできなくなりましたしね。ただ、インタビューを読み返していても、僕の根っこにあるものが大きく変わったような気はしないんですよ。成長、というよりも、プラスアルファの何かが備わって、ブラッシュアップされたんじゃないかなと思います。

――変化に対する気負いはありますか?

それが、ないんですよ。たぶん、若い頃から、年上の先輩方と一緒に過ごすことが多かったからでしょうね。たとえば二十歳のころ、今の僕と同じ36歳だった先輩方が、現場でどうふるまうのか、後輩たちにどう接するかを、間近で見てきた。もちろん、今の僕より年上の先輩方のふるまいも。当時は簡単にまねすることなんてできなかったそれを、今なら実践できる。頭の中には常に、そうしたお手本となる人たちの姿があるから、気負わずに済んでいるんじゃないのかな。

「表現する仕事は誰かを目指すことではない」

――特に影響を受けた方は、いらっしゃいますか。

有名無名かかわらず、たくさんいます。たとえば無名だと、ムロツヨシという人とか。(一同、笑い)これで笑いがとれるようになったことが、僕とムロさんが成長した証ですね(笑)。出会ったころはお互い、無名もいいところでしたから。他には、堤真一さんや古田新太さん、阿部サダヲさんに八嶋智人さん。本当に、数えきれない方々のお世話になって、今の僕があります。

――では逆に、尊敬する先輩方に追いつけなくて焦る、みたいなことは。

それもないですね。ときどき「目標にしている人はいますか」とか聞かれることがあるけど、表現する仕事って、誰かを目指すようなものじゃないと思うんですよ。目指したところで届くわけがない。だって、武器となる個性が同じ人なんて、いないんだから。全員で同じ山を登るのではなく、一人ひとりが自分だけの山を見つけて、その頂をめざす。登り切ったと思ったら、また別の高い山が見える。それが僕らの仕事なんじゃないのかな。登った先で誰かと目線の高さが近づくことはありますけど、同一になることは決してない。オリジナルでいることが、必要なんだと思います。

「できることを増やしていくことで自分らしさが見つかる」

――オリジナルな自分を育てるために、意識していることはありますか。

オリジナルな私を受け入れて! と押し付けられることほど腹立つことってないじゃないですか(笑)。矛盾するようですけど、オリジナルにありのままで生きていけたら、誰も苦労はしない。そのつど、状況にあわせて自分というかたちは変えていかなきゃいけないし、秘めておかなきゃいけないこともある。でもそれをしたからといって、本来の自分が消えてしまうかというと、必ずしもそうではないと僕は思います。バスケのピボットみたいなもんかね。片足を軸として固定して、もう片方の足で動き回る、あれです。

 役者に限らず、社会生活においては臨機応変に対応する力も求められるでしょう。そういうとき、何があっても、自分らしさという軸足を固定したまま、自由に動き回ることができるのが、理想ですよね。とくに役者なんて、一人では何もできない仕事ですから。自分の内側だけでなく、外側にも目を向け、さまざまな角度から物事をとらえることのできる視点を養っていく。自分らしさというのは、そんなふうにできることを増やしていった結果、自然と見つかっていくものなんじゃないかと思います。

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