2023年はラグビーワールドカップの年 サッカーとラグビーが同じスポーツだったというのは本当か?

イギリスのとある学校でサッカーをしていたエリス少年が興奮のあまりボールを手に持って走ってしまったのが、ラグビーの起源? サッカーならそうだが、フットボールならどうなる?

2023年はラグビーのワールドカップ

 2022年の暮れはサッカーのワールドカップが盛り上がった。そりゃそうだよな、ドイツとスペインに逆転勝利だもん。うれしくて当然だ。

 そして、2023年にはラグビーのワールドカップが控えている。前回、自国開催だった日本だが、強豪アイルランドを撃破するジャイアントキリングなどでみんな大興奮した。今回も熱い試合を期待したいものだ。

 そこで、そのラグビーとサッカーについての話。

 「知ってた?  この両スポーツは実は同じスポーツだったんだぜ!」

 というネタだ。

 知らなかった人は、素直に驚いてくれていい。でも、「そんなもん、知っとるがな」という方も多いだろう。

 筆者もそういう側だった。でも、かなり誤解していたので、その誤解も含めて解説してみたい。

ラグビーの起源は無法な暴走少年?

 ラグビーとサッカーが同源であるという知識は、ある年代以上の人に多いのではないかと思っている。理由は、当時の学習ノートの豆知識コーナーだか、発明など起源を集めた児童向け書籍に、それが記載されていたからだ。

 内容をかんたんに説明すると、

 「1823年、イギリスのとある学校でサッカーをしていたエリス少年が、興奮のあまりボールを手に持って走ってしまったのが、ラグビーの起源なんだ!」

 というものだったはず。筆者もこれを読んだ。そして、ガキらしい正義感で思った。
(こんな違反行為、ルールに照らして退場させるべきである!)

 まあ、エリス少年が「サッカー」をしていたのなら、たしかにそうだ。彼は無法な暴走少年となる。でも、やっていたのは「フットボール」の試合だった。そこに誤解がある。

中世のイングランドでは、動物の睾丸に空気を入れて膨らませたものを相手のゴールに入れるというようなゲームが行われていた。写真=photlibrary

エリス少年はボールを手にして、走った

 フットボールの起源というのは、エリス少年がボールを持って走った19世紀初頭どころじゃなく、もっと古い。まあ、日本では飛鳥時代には蹴鞠が中国から輸入され、その中国では4000年前くらいから球を蹴る風習があったらしいし、西洋でも古代エジプトとか古代ギリシアで、ボールを蹴る姿のレリーフがあるので、誰が発明したとかは野暮なのかもしれない。人類は球があったら蹴ってしまうもの、とでも思えばいい。

 中世のイングランドでは、動物の睾丸に空気を入れて膨らませ、それを大人数で手足を使って争い、相手陣地に放り込めば勝利(ある意味、もうラグビーである)というような競技も行われていた。

  ただ、社会が発展し、人同士の交流が増えると、同じルールで公平に競技する必要が出てくる。エリス少年が生きたのは、そんな時代だった。

 「フットボール」という競技はすでに存在していたが、みんなあちこちでローカルルールをつくり、勝手にプレーしていたわけだ。だから、ボールを扱うときに足をメインにするルールもあれば、手を使うことが多いルールもあった。

 そして、エリス少年が通っていたのは、名門ラグビー校。このラグビー校のフットボールルールでは、ボールを手で扱っても別によかった。

 でも、エリス少年はボールを手にして、走った。そこがラグビー校のルール的に違反になった(やっぱり、違反してるじゃん!)。

 ただし、この逸話はここで終わる。ルール上、どんなペナルティがあったのかも不明だ。だけど、そんなことで退学とかになった様子はない。ついでに言えば、当時の彼は17歳前後、少年というのも変だ。略伝を見ると、彼はオックスフォード大学に進んでクリケットをやり、その後は牧師になって立派に生きたという。試合の顛末も、なぜこの話が有名になったのかも気になるが、エリス少年の心配はしなくていいようだ。

「足で蹴る派」と「手を使う派」

  エリス少年はいいのだが、フットボールという競技を心配する人が出てくる。19世紀半ばには「そろそろ統一ルールでも」と考える人々が現れる。ケンブリッジ大学の「ケンブリッジ・ルール」、シェフィールドFCの「シェフィールド・ルール」など、有力団体がルール作成をはじめた。

 ただ、この時点でもフットボールには「足で蹴る派」と「手を使う派」の潮流は残っていた。それぞれのルールにそれぞれのフットボールの醍醐味があったのだろう。

 そして、1863年、FA(フットボール・アソシエーション、現在のイングランドサッカー協会)が発足する。ちなみに、日本でフットボールを「サッカー」と呼称するのは、この「アソシエーション(association)」の「soc」部分が語源とされている。

 それはいいのだが、この組織はどちらかというと、「足で蹴る派」のものだった。「手を使う派」は、そのままでは埋没してしまう。

 そこで、1871年、FAを離脱した「手を使う派」の人たちが、RFU(ラグビー・フットボール・ユニオン、現在はイングランドラグビー協会とも訳す)を立ち上げる。

 こうして、混とんとしていたひとつのスポーツから、現在の日本で「サッカー」「ラグビー」とするふたつの「フットボール」が生まれた。

 このあたりの経緯については、『球技の誕生 人はなぜスポーツをするのか』(松井良明・平凡社)に詳しい。ほかにも野球とクリケットが同源であるなど、興味深い話も多いので、スポーツ好きの人は手に取ってもらいたい。

 サッカー、ラグビーの分離後、両競技は世界各地で楽しまれる人気スポーツに発展し、ともにワールドカップも開催されるほどに成長した。

 そうそう、サッカーのワールドカップは、あの純金のトロフィーをかけて争われるんだけど、ラグビーのトロフィーは「ウェブ・エリス・カップ」という。

 そう、ウィリアム・ウェッブ・エリスさん、あの少年の名を冠している。だから、決して暴走少年などと言ってはいけないんだよ。

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